マンマのレシピ

マンマの紹介

  • カルメーラ・カルボナーラ(Carmela Carbonara)さん
  • プーリア州セルヴァ・ディ・ファザーノ村在住
  • 得意料理:フォカッチャ、パスタ・フォルノ

お料理説明・背景

「子供たちが久しぶりに休暇で帰ってきたの。彼らが帰ってきたらこの料理の出番よ。子供たちの大好物なの。と~ってもおいしいのよ!」と嬉しそうに話すのは、生まれも育ちもプーリア州のカルメーラ。大の子供好きのカルメーラは、以前は3~6歳の子供を預かる幼稚園で保母さんをしていた。私生活でも4人の子宝に恵まれ、今は唯一実家に残って大学に通っている一番年下の三男とご主人の3人で暮らしている。長女はミラノ、長男はドイツのベルリン、次男はフィレンツェで働いているのでなかなか会えないが、子供たちが帰ってきたら必ず作るのがこの「ポテトとムール貝の炊き込みご飯」だ。特に次男ヴァレリオのお気に入りの一品で、ヴァレリオの誕生日には毎年欠かさず作ってきた。子供たちにとっても、この料理は帰省の際の最大の楽しみでもある。

普段から料理が趣味のカルメーラは、テレビの料理番組を見て、おいしそうなレシピがあれば果敢に挑戦するようにしている。だけどプーリア州・バーリ地方の郷土料理「ポテトとムール貝の炊き込みご飯」のレシピはカルメーラのお母さんと伯母さんから教わったものだ。レシピに変更を加えずそのまま忠実に守って作る。プーリア州の海で獲れる甘みの強いムール貝の旨みを存分に味わえる自慢の一品は素朴で優しい味がする。

イタリアで一般的な米料理といえばリゾットだが、この料理は全く違う。ブロードを加えながらお米を「煮る」のがリゾットだが、この料理は火とオーブンの熱で「炊く」のである。だから初めてこの料理を口にした時、「まるで釜めしのようだ!」と思ってしまった。日本米を使わないのでお米に粘り気こそないものの、ムール貝のだしがお米にしみ込んだ味わいは日本の炊き込みご飯そのもの。おかげで、イタリアの地でイタリア人たちとイタリア料理を食べていたにも関わらず、日本の風景が頭に浮かんできてしまった。

「ところでうちのトゥルッリの屋根はもう見た?」とカルメーラ。トゥルッリ(trulli)とは、プーリア州に多く見られる伝統的な形式の住居だ。カルメーラは秋から春にかけてはプーリア州のモノポリのマンションに住んでいるが、暑い夏の間は小高い丘の上にあるセルヴァ・ディ・ファザーノ村の家で過ごす。1850年頃に建てられたこの家には、正面玄関からは見えないが、庭から見ると立派なトゥルッリのとんがり屋根がど~んとそびえ立っている。

「その昔、この辺りでは納める税金の金額は家の大きさ・空間で決められていたんだ。だから、税金の金額を決める時期になって役所の人が家へ訪問する頃になると、住民たちはトゥルッリの屋根を取り除いて税金を低く見積もらせていたそうだ。屋根が石灰岩を積み重ねてこんな風になっているのは、簡単に屋根を取り除くためさ。頭がいいだろ!」とは、次男のヴァレリオ。ヴァレリオがこの家に住んでいた頃はとんがり屋根の部屋が自室で、高い天井の部屋で眠るのは気分が良かったと当時を振り返る。

この家には他にも昔の生活の名残りがある。巨大なオリーヴの木が何本も生えている広大な庭にはaia(アイア)と呼ばれる小麦粉を作っていた円形状の場所が今も残っているのだ。アイアが使用されていたのは1890年から1940年にかけて、カルメーラの夫ジュゼッペの祖父母と、ジュゼッペの母親が20歳になる頃まで小麦の穂をアイアに干し、乾燥させて小麦粉を作っていたそうだ。

曾祖父母の暮らしが垣間見られる場所で、曾孫のヴァレリオは久しぶりのマンマの手料理を口いっぱいに頬張っていた。「あ~やっぱりおいしいなあ」ヴァレリオの食べっぷりを満足げに見つめるカルメーラ。そんな微笑ましい家族を、曾祖父母もきっとどこかで見守っているのだろうなと、ふとそんな気になったプーリアの午後のひとときだった。

レポート:小林真子(Kobayashi Mako)
フィレンツェ在住。テレビ局報道記者を経て2011年渡伊。2012年からフィレンツェ在局FMラジオに出演中。イタリア製本革バッグのオンラインショップ「アミーカ・マコ」をフィレンツェで起業・経営しながら、週刊誌等でイタリア関連記事のライター活動も。これまでに世界30ヶ国200都市以上旅行。ブログ:AmicaMakoイタリアンスタイル

材料

ポテトとムール貝の炊き込みご飯(8~10人分)

・米(パーボイルドライス)1kg半茹でにして干したすぐに茹で上がる米
・ムール貝殻付き2kg
・ジャガイモ3~4個
・タマネギ小1個
・ミニトマト20個小さめのトマトでもOK
・ニンニク1片
・イタリアンパセリ2~3束
・オリーヴオイル適宜
・水コップ3杯程
・塩、コショウ適宜ムール貝の塩加減による

作り方

    下ごしらえ

  1. 手を怪我しないように、ゴム手袋をはめる。ムール貝をビニール袋に水と一緒に入れ、袋の上からムール貝同士をこすり合わせて洗う。汚れた水は捨て、また綺麗な水を入れてムール貝をこすり合わせて洗うことを3回程繰り返す。
  2. ムール貝の中から出ているひげを貝の付け根の方から口の方へ引っ張って取り除く。
  3. パーボイルドライスを水に浸しておく。

作り方

  1. パエリヤ鍋のようなある程度深さのある大きな鍋(後にオーブンに入れるのでオーブン耐熱鍋を選ぶ)にオリーヴオイルをひき、刻んだニンニクとスライスしたタマネギを並べる。(写真a 参照)
  2. 最初にムール貝を鍋一面に並べる。(写真b 参照)
  3. 薄くスライスしたジャガイモを一面に並べる。(写真c 参照)
  4. 水に浸しておいたお米(パーボイルドライス)を、水気を切りながらジャガイモの上に敷き詰める。(写真d 参照)
  5. お米の上に刻んだミニトマトを散らす。さらに粉末状にしたパルミジャーノレッジャーノチーズをかけ、その上から刻んだイタリアンパセリの葉と塩コショウ、オリーヴオイルをかける。(写真e 参照)
  6. 2~5の手順を、鍋がいっぱいになるまで、または材料が終了するまで繰り返す。(写真f 参照)
  7. 最後に水を鍋のふちに沿うように回し入れる。水は鍋の高さの半分より少し多めに入れる。(写真g 参照)
  8. 蓋をし、弱火で水が沸騰するまで加熱し、沸騰したら火を止める。
  9. 蓋をして180度に予熱したオーブンに入れ、約18分加熱。鍋の端の方のお米やジャガイモを味見し、まだ完全に火が通っていなかったらオーブンに入れて調整する。お米が炊けたら完成。(写真h 参照)
  • a. 鍋にオイル、ニンニク、タマネギを入れる
  • b. ムール貝を並べる
  • c. ジャガイモを並べる
  • d. パーポイルドライスを敷き詰める
  • e. ミニトマト、チーズ、パセリ、オイルをかける
  • f. b~eの手順を繰り返す
  • g. 鍋のふちから水を回し入れる
  • h. 蓋をしてオーブンへ

お料理ポイント

ムール貝は必ず最初に並べることが大事。そうすることで、ムール貝のおいしいダシが出て全体に染みわたり、またジャガイモが鍋の底にくっつくことも防げるから。一番上になるのは、ムール貝でもジャガイモでも、お米以外ならなんでもいい。鍋がいっぱいになるまで、または材料がなくなったらそれで完成。途中で混ぜてはだめよ。
それから、ジャガイモの火の通り具合も肝心ね、ジャガイモが生だとおいしくないのは想像できるでしょ。早く調理するにはジャガイモを薄くスライスすることね。お米には必ずパーボイルドライスを選ぶこと。残念ながら日本のお米は粘り気があるようだからこの料理には向いていないの。