お料理説明・背景
「ローマに住んで45年だけど、どんなに時が経って変化しようと、この街がずっと大好き。」
そう語ってくれたのは今回のマンマ、アダルジサ。長年働いていたバールで身についた少し早口な口調と、小気味良い動きにこちらまで活気付けられる。
アダルジサはマルケ州の小さな村の出身だが、22歳のときにローマのバールで働く兄を頼って上京してきた。日曜日にローマにいる従兄弟たちと集まって食卓を囲んだり、他の州の村から出てきた人たちと異文化交流をしたり、貧しかった中でも都会で助け合って暮らしていた経験が貴重な青春の思い出だそう。
キラキラとした瞳で話してくれるので、「70年代のローマってどんな雰囲気だったの?」と聞いてみたら、「街中に芳香が漂っていたわ。パン屋からは朝の焼きたてパンの香り、バールからはコーヒーの香り。そして、美しい商品が並んだお店のショーウィンドウを女友達と物色して歩くのが贅沢な過ごし方だったわね。」と語ってくれた。
そんなローマに惚れこんでいるアダルジサが、料理のレシピの手本にしているのが料理家でテレビタレントのソラレッラ。”ローマっ子のマンマ”と呼ばれ、伝統料理をアレンジした数々のレシピを作ってきたことで有名だ。彼女が工夫した伝統料理、「ローマ風トリッパ」も、アダルジサは早速自身のレシピに取り入れたそう。トリッパとは、牛の第二胃であるハチノスのこと。それを野菜と、ローマ近郊でとれるミント、メントゥッチャで煮込んだ一品だ。
もともとトリッパは、トリッパローリという臓物屋さんが「トリッパー!」と叫んで家から家へと売り歩いており、ローマの庶民に親しまれていた。土曜日には家族でトリッパを囲むのがローマの習わしだったそう。 「トリッパはにおいがきついから、クローブやメントゥッチャ、バジリコで香り豊かに調理するのがおいしさの秘訣よ。」と、アダルジサ。もともとは冬のレシピだが、夏にパワーをつけるために子どもたちにつくっていたそう。
「Non c’è trippa pe’ Gatti(猫がトリッパを手に入れられない)」という言い回しがあるが、猫がトリッパが好きなことにちなんで、どうしても欲しいものが手に入らない時に使う表現だ。「ローマは美しすぎるけど、私は仕事で忙しすぎて名所を訪れる時間が無い」というアダルジサも、自身のことを「私が猫だとすると、トリッパはローマね」と言って、笑っていた。
ローマとカラブリアに1年のうち半年在住。世界40カ国を旅した後、フレグランスや旅をメインに国内外で執筆活動をしている。
作り方
- 処理済みのトリッパを購入しても、自宅で再度においを消し去る下処理をすると食べやすい。まずトリッパを水洗いし、一口大に切る。鍋に水と少量の塩、トリッパを入れて15分程煮ながらアクをとる。一旦湯を捨てて新しく水を入れ、同様の作業を3回繰り返す。
下ごしらえ
作り方
- ニンジン、セロリ、タマネギをみじん切りにする。(写真a,b,c 参照)
- 鍋にオリーヴオイルを熱し、ニンニクを入れて炒める。(写真d 参照)
- 1を2に入れて、弱火で炒める。(写真e 参照)
- トリッパを加え、トリッパの水分を飛ばすように更に炒める。(写真f 参照)
- 白ワインを加え、蒸発させるように炒める。(写真g 参照)
- 塩、コショウ、クローブを加えて混ぜる。(写真h 参照)
- トマト缶、ミント、バジリコを加えて弱火で2時間程煮込む。その間、焦げ付きそうになれば、水を足しながら煮込む。(写真i,j 参照)
- ペコリーノ・ロマーノを振りかけてサッと全体に混ぜ合わせる。(写真k 参照)
- 皿にのせ、もう一度ペコリーノ・ロマーノを振りかけて完成。(写真l 参照)