お料理説明・背景
80歳を越えるイタリアのおじいちゃん達にはチョコレート好きが多い。例えば『イタリア好き ロンバルディア州』で紹介されたワイン生産者リーノ・マーガさんは出不精で有名だが、一度だけレストランに誘い出せたことがある。夫が目ざとくデザート欄にチョコのムースを見つけてすすめたとき、リーノさんは初めてとろけるような笑顔を見せた。
「あら、ダメよ! こら、触らない!」
前回に引き続き今回もピエモンテのマンマとして登場してもらう、マンマ(マミン)こと私の義母エドヴィリアがデザート・レシピ「ボネッ」に使うアマレッティを砕いていると、ひょいといたずら小僧よろしくつまもうとするパピン(私の義父)。その手をマミンがぴしゃり! パピンは膨れっ面になったもののボネッをつくっていると知りその場を離れがたくうろちょろしてまたマミンに叱られる。パピンもチョコレート好きだったか……
イタリアでも戦争を経験した人の数は年々減っている。当時、子供だったパピンの年代には高級菓子の代表だったチョコレートが手に入らなくなった。トリノのお菓子ジャンドゥイヨットは、その昔カカオが手に入らずヘーゼルナッツで代用したことが起源だということは日本でも良く知られているが、そのくらいオセロの肌のような漆黒でエキゾチックなアロマを放つカカオは、まだ外の世界を知らなかったイタリアには魅力的だったのだ。当然、今では日本でもイタリアでも当たり前のように手に入るチョコ。それでも家庭でキャンディーだのクッキーなどがあっても、ひと年いった特に男性陣がそろそろと手を伸ばすのはやっぱりチョコ。
このピエモンテのデザート「ボネッ」はピエモンテの男たちが好んでかぶるハンチング帽「ボンネット(シチリアならコッポラになるが)」の意味。冷たいボネッを型からはずしてお皿に盛ると、ぷよぷよぷるりんと傾き加減になるのがボンネットの形に似ていることからこの名がついた。年中つくりたいときにつくっても良いデザートだが、実際には秋の味覚。タヤリンに豪勢に白トリュフを削りかけたり、風味豊かなジビエのこってりしたセコンドを重厚なバローロとあわせて堪能するような夕食の後の締めくくりには、さっぱりとしたマチェドニアやシャーベットでは到底収まりがつかない。やっぱりカカオのアロマとアマレッティ独特の甘ったるーい風味が渾然一体となったボネッで胃袋に止めを刺してもらわなくては!
素朴だけどどこかよそ行きの顔で食卓に上るボネッ。皆さんのご家庭でも是非試してみてくださいな!
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
- アマレッティを砕く。マミンは袋に入れたものを木槌で上からとんとん。こうすればかけらが飛ばない。(写真a,b 参照)
- ボウルか鍋に分量の牛乳を入れる。(写真c 参照)
- 卵を別皿などに割り入れ、殻などを除きそのまま2に入れる。(写真d,e 参照)
- 砂糖、カカオ、アマレッティも入れる。(写真f 参照)
- ハンドミキサー(泡だて器など)で撹拌する。(写真g 参照)
- バットに2センチ程度の深さの水を張り、カップを並べておく。
- 別の鍋にカラメル用の砂糖を入れて、火にかけ、弱火で炒るかんじで常にかき混ぜながらカラメルをつくる。カラメル状になったらカップに均等に流し込む。(写真h,i,j 参照)
- 5をさらにもう一度簡単に撹拌したところでカラメルの上からカップに流し入れる。(写真k,l 参照)
- 200度(熱源は上下とも)に温めたオーブンで30分蒸し焼きにする。(写真m 参照)
- 指で押してみて弾力性を感じるようなら出来上がり。別のバットに7と同じように冷水を張ったところへ、カップを移し入れる。(写真n 参照)
- バットにアルミホイルをかぶせ、荒熱がとれ、室温まで冷えたところで冷蔵庫に入れ、さらに冷やす。(写真o 参照)
- カップの周囲にナイフなどを入れ、皿に逆さにして抜いて出来上がり!(写真p,q 参照)
お料理ポイント
エドヴィリアから二つのポイントを教えてもらった。一つは「カラメルをカップに入れるとき、カラメルの重みでカップが傾いて固まり始めるけど心配しないで。そのまま進んじゃっていいのよ。オーブンで温まるとカラメルは自然に均一な厚さになるから」と。
もう一つは「別のバットに冷水を取って冷ますのは、そのまま室温まで放置して冷ますと残った熱で内部に気泡ができてスポンジ状になり、滑らかな舌触りにならない危険があるの。プリンと違って本当は良い子でね、なかなか気泡をつくりにくい子なんだけど、ほら、せっかくつくるのにちょっとした手間隙を惜しんで台無しになったら嫌じゃない?」とのこと。マミンが色々試した結果の手順なので、無駄があるかな?と思うことも、ぜひマミンのやり方で試してみてくださいね。