お料理説明・背景
実は今回のマンマ、エドヴィリヤは私の実際の義理マンマで、『イタリア好き』でも時々登場しているクラウディオの母親。私は「ちーまま」の意味で「マミン」、義父は「パピン」と呼んでいる(彼はすっごく嫌がるけど)。
彼女はソルデヴォロ村で夫と一緒に50年間、小さな肉屋を営んでいた。戦後の物のない時代、肉牛肥育で知られるモンフェッラートの畜産農家出身で、家畜に対して高い目利き力をもっていたパピンはそれを活かし肉屋を開いた。
二人は毎朝5時に起き店に直行、それでも6時半には店の前で腕時計とにらめっこで開店を待つ村の住人もいたという。パピンの辛口トークとマミンの朗らかさも手伝ってそれなりに繁盛した。ミラノやトリノから、バカンスに来て買いだめしていく客も少なくなかったという。
義母から習ったというアニョロッティや、このヴィテッロ・トンナート、タスカという詰め物をした肉のスライスなど、マミンお得意の惣菜も多く、共稼ぎの家庭にも大きな助けになっていたそうだが、村の人に惜しまれながら1997年に閉店。店のシャッターを完全に下ろしてからは、家族とわずかな知人のためだけにマミンは厨房に向かう。それから既に20年近くが経ち彼女も76歳を迎えた。
私は2000年に来たから一足遅く、彼らの店の様子も、肉の味も知ることできなかった。彼らの思い出話と、村の人が今でもマミンの惣菜、パピンのつくるサラメ・コットやコテキーノ(豚皮も刻んで入れるソーセージで茹でて食べる)の話を半ば夢見がちに語るのを聞いて想像するしかない。
ヴィテッロ・トンナートはピエモンテの郷土料理の代表格! ところが考えてみれば『イタリア好き』のマンマの味として一度も紹介されていない。クラウディオの幼馴染のピエロが「どこで食べるよりエドヴィリアのつくるヴィテッロ・トンナートが一番うまい」と半ば涙目でかぶりついていたのを思い出した。ピエモンテのどこの家庭でも「うちのマンマのつくるヴィテッロ・トンナートが一番!」と言い切って口にする一切れがある。
昔気質でピエモンテーゼ独特のちょっぴり恥ずかしがりやなマミンにレシピを披露してもらうのは、たとえ家族の間柄でもなだめたり、跪いたりと数日かかりで簡単ではなかった。果たして、マミンの味を絶賛するピエロが正しかったか、つくり甲斐があるかどうかなどは皆さんのご判断にお任せ!
九官鳥のように真っ黒の鳥メルロの歌声でシャッターを開け、客の明るい笑い声がこだました小さな「精肉店グイド・ガッリーナ」。秋のハンティングだけを楽しみに、バカンスにも行かず、ひたすら肉にナイフを入れ、腸詰用の肉をこねていないときは掃除に励む、そんな亭主の隣で、肉のスライスにペタペタとツナソースを絡める女房。ピエモンテの小さな村の片隅に昔あった肉屋をガラス越しに眺めるつもりで、是非挑戦してみて欲しい!
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
下ごしらえ
- 深鍋に肉や野菜などの材料を全て入れ、たっぷりの水を足し火にかける。強火で、沸騰したら火を弱めて1時間ほど茹でる。(写真a 参照)
- 茹で上がったら、鍋から野菜などを引き上げ、肉は茹で汁ごと一晩置いて冷ます。(常温まで冷えたら冷蔵庫へ)(写真b 参照)
つくり方
- マヨネーズをつくる。ハンディーフードプロセッサー用の容器に分量のオイルを入れる。(写真c 参照)
- 1個の全卵と、白身を取り除いた黄身1個を入れる。(写真d 参照)
- 最後に予めしぼったレモン汁と塩を入れ、フードプロセッサーのスイッチを入れる。(※ここまでの材料を入れる順番を間違うと撹拌しても固まらないので注意!)(写真e 参照)
- 次にツナソースをつくる。マヨネーズ以外の材料をフードプロセッサーに入れ撹拌する。(写真f,g 参照)
- 先につくったマヨネーズの半量程度とよく混ぜ合わせる。ソースがかたければ残ったマヨネーズで調整する。
- 肉を茹で汁から引き上げキッチンペーパーでよく水気を切り、スライスする。スライサーがれば均等にスライスできてなおよい。(写真h,i,j 参照)
- ツナソースをどんぶり状の口の広い容器に入れ、スライスした肉にソースを絡ませて平皿に外側から内側に向かって並べていく。(写真k 参照)
- 仕上げに飾りのケッパーを。中央に一個、東西南北に一つずつというように均等に並べていく。(写真l 参照)
- すぐに食べないときは、ラップではなく同じ大きさの皿を上にかぶせておけば見栄えを損なわなくていいでしょう。(写真m 参照)
お料理ポイント
このマヨネーズのレシピはハンドフードプロセッサー用です。他の器具を用いる場合は方法が少し違ってくるのでご注意を!泡だて器やハンドミキサーを用いる場合は、卵にオイルを少しずつ足しながら混ぜ、途中でレモン汁も少しずつ足しながらひたすら撹拌する。最後に塩で味を調整。一方向に回すように撹拌し、絶対に反対方向に切り返さないでね、固まらなくなってしまうから。卵は室温にして使うことが大事。時間がなければ熱めのぬるま湯に浸してもいいのよ。マヨネーズづくりが一番の辛抱どころ。でもこれがおいしいヴィテッロ・トンナートになる鍵ね! なんでハンディーフードプロセッサーを使うかって? これが一番手軽においしいマヨネーズが出来ちゃうからよ! フフフッ
塩漬けのケッパーは良く塩抜きをすること。時間がなければ塩水に入れて市販されているものを使用するのが良いわ!
それから、肉のスライスのレシピはボッリート(イタリア版ポトフ)のレシピなのよ。だから豚肉の場合は脂肪が多すぎて使えないけど、脂肪分の少ない牛のモモ肉(赤身)を使った後の茹で汁は漉して冷凍しておけばブロードとして様々な料理に使えるわよ。リゾット、オニオン・グラタン、野菜スープなどに使ってね。同じ方法で鶏がらを使いブロードにしてもよし。イタリア料理の基本、ブロードになりますよぉ!