お料理説明・背景
プーリアでアスパラガス(写真右側の細めのアスパラガス)と言えば、自生のアスパラガスのことを指す。
栽培ものも売ってはいるが、アンジェラは買ったことがないと言う。今回の撮影のためにはアンジェラのお父さん(イタリア好き第2号の表紙に写っている男性=夫の叔父)が採ってきてくれた。何しろ自生のものを探しに行くのだから万が一見つからなかった時のためにと栽培ものも用意したが、杞憂に終わった。
叔父は「見つけてくると言っただろ!」と誇らしげな顔で自生アスパラガスの入った袋を差し出した。3月末から5月頃にかけて牧草地の茂みや林の中へアスパラガス狩りに行くのは、もっぱら時間に余裕のあるリタイアした年配男性たちの仕事。雨が降った後など頃合いを見ていそいそと秘密の場所へ出かけて行く。肝心なのは探しに行くタイミングで他の人に先を越されては場所を変えなければならないし、あまり成長しすぎていると固くておいしくない。姿は栽培ものをうんと細くした感じで、線香花火のようなとげのある細かい葉の間にひょろひょろと出た芽と柔らかい茎の部分を食す。
春に苦旨い野菜が多いのも日本と同じだが、自生アスパラガスも苦みとアクが結構強い。採ってきたその日のうちに食べないと苦みが強くなってしまう。ミントとニンニクの葉を加えるのは苦みを緩和させるためともいえる。
料理方法は湯がいたものをたくさんのチーズとパン粉にまぜて卵焼きにするのが一般的で、たっぷりのオリーヴオイルで揚げるように焼くのがポイント。ちょっと厚めでスパニッシュオムレツに似た感じ。栄養もカロリーも満載でこれだけで十分メインディッシュになる。
この料理はアスパラガスの風味もさることながら、もうひとつの味の決め手はチーズ。アンジェラの家では、彼女の両親を含めて一家6人が1年間食べる分を冬の間数回に分けて合計7~8個、牛乳の量にして120リットル分、家族総出でつくる。近所の牧場から買って来る絞り立ての牛乳と仔羊の胃の中にある酵素、それにアドリア海の海水が材料。牛乳を適温に温めて酵素で固め、水を切って熟成させるという一番シンプルな製法。流通しているチーズには付加価値を示す固有の名前があるが、この自家製のチーズの呼び名はずばりフォルマッジョ(イタリア語でチーズの意)。このチーズがちょうど良い熟成具合になった頃、自生のアスパラガスが芽を出すという塩梅だ。
プーリア州在住。1999年プーリアと日本の架け橋になるべく(有)ダプーリア設立。2008年子育てのため夫の故郷Valle d’Itriaへ移住。スローライフを実践しながらプーリア仲間増殖活動中。