お料理説明・背景
はじめてルチャーナに出会ったのは、今から5年前のこと。 私が主宰する『ウンブリアの食卓から』というツアーで料理教室を企画した際、料理上手な地元主婦を紹介してもらったのがきっかけだった。
人口3000人のモンテファルコは丘の村。
その地形を生かして古くからワインづくりが盛んだ。サグランティーノという地場品種からつくられるフルボディの赤ワインは、州を代表する銘酒である。周囲にスポレートやフォリーニョなどの中堅都市に囲まれながらも、中世都市の存在感が光る。
ルチャーナの家はブドウ畑の丘の中腹に位置する昔ながらの農家。納屋にはワラが積まれており、家畜小屋、菜園、オリーヴ畑、もちろんブドウ畑もある。小規模ながら、ほぼ自給自足の生活を営んでいる。
料理教室のため、試食がてら昼食にお邪魔した。祖母から受け継ぐ“パンをこねる専用の棚”で、産みたて卵を使ってパスタをつくる。あっという間に柔らかい生地ができあがった。
自家製の生ハムを刻んでオリーブオイルと畑のトマトで手早くソースをつくる。焦がすのが嫌い…と言いながら水を加えて蒸し煮にした。
朝取り野菜を、自家製のワイン酢とオイルでさっと和えてサラダに。もちろん手作りワインが料理の伴走役だ。
どれもルチャーナが丹誠込めてつくったものばかり。家族においしく食べてもらい健康であって欲しい、という想いが詰まっている。豊かな気持ちで満たされる。料理の味と手際、清潔な台所、楽しいおしゃべり… どこをとっても料理の先生として申し分ないと確信した。
食後のクッキーをつまみながら話が弾む。「若い時に父親を亡くしてねぇ。母とパスタ工場で働きながら、必死に家計を支えたのよ」時にユーモアを交えながら語る。
「苦労もあったけど夫と子供二人で楽しく生活してきた。子供たちに家をと、土地を買い、毎週土曜日ごとに2年間通って一軒家を夫婦で仕上げちゃったのよ。さぁ、これから老後を楽しもうって時に、夫は病気で天国に行ってしまったけれども」
ずっと彼女の生い立ちを冒険小説のように聞いていたが、最後の件にビックリして、彼女と一緒に涙してしまった。「ごめんなさいね、湿っぽくなったわ。今、カフェを入れるからね」と言い、立ち上がったルチャーナ。深刻な話も、台所でなら不思議と重くならないのはなぜだろう。台所にはそんな”懐の深さ”みたいなものがある気がする。
今回紹介する ストランゴッツィは、スポレート近郊に伝わる手打ちパスタ。ルチャーナがパスタ工場勤務の貧しかった時に言われたとう、上司の名言をリスペクトして紹介する。「小麦粉はすごいぞ。水でこねるだけで大家族のお腹を満たせるから。飢えから救う魔法の粉だ。」
日本同様、戦後しばらく貧しかったイタリア。どれだけの国民が小麦粉によって救われたことか。やっぱりパスタは偉大だ。
ウンブリア州在住。製薬会社を退職し渡伊。2005年にマルケ州Itakcookを卒業し、スローフードに関心を持つ。食文化を深める旅の企画&通訳、執筆活動を行う。
作り方
- ストランゴッツィをつくる。(下記参照)
- アスパラガスのソースをつくる。(下記参照)
- 大鍋に水をおよそ3リットル入れ、沸騰したら塩(分量外)を加え、ストランゴッツィを入れて2分茹でる。
- 茹であがったら、温めたアスパラガスのソースに加え、全体がなじむように混ぜる。(写真p,q 参照)
ストランゴッツィ
- 小麦粉とセモリナ粉を合わせ、山をつくり、中心をくぼませる。そこに卵と塩(卵1つに対して1つまみ)、オリーヴオイルを加え、徐々に崩しながら混ぜてまとめる。途中、生地が硬ければ白ワインを加え、耳たぶくらいのやわらかさを目安に5分ほどこねる。(写真a,b,c 参照)
- 生地にラップをかけ、最低20分休ませる。(写真d 参照)
- 2を綿棒で1mmの厚みまで伸ばし、10分ほど乾燥させる。(写真e,f,g 参照)
- 表面にくっつき防止のためトウモロコシ粉を振り、中心にむかって上下から5cm幅に優しく丸め、5mm幅に切る。(写真h,i 参照)
- 4の麺の上部だけをつかみ、高く持ち上げて(麺を広げる役目)、ある程度上げたところで、麺の真ん中部分を手に持ち替えて台の上で軽くはたく。(写真j,k,l 参照)