お料理説明・背景
「秋といえば、私の得意なカプネットの季節だわ」
そう言って冷蔵庫からどんどん材料を取り出し、最後に野菜かごからサボイキャベツを厳かに手に取ってテーブルに横たえたズィータに、どうぞカメラのシャッターをと合図された。
ある本に「Capunet」の語源はCappone(去勢された鶏)に由来すると書いてあった。受粉前のズッキーニの花に包むからだと言うと
「そんな訳ないでしょ! 包む野菜はキャベツよ、サボイキャベツ。秋のひんやりした空気に触れたキャベツは甘さが増してたまらなくおいしくなるのよ。ズッキーニの花? あれはおまけよ、控え選手の一つね。本命はキャベツ。ちゃんと調べてごらんよ!」
親戚からわざわざ分けてもらってきたというキャベツの葉を大事そうに一枚ずつ外しながらズィータは続ける。
昔は、この地域の人たちは山で家畜を飼っていても、なかなかその肉を自分たちの口にできることはなかったという。お肉は御馳走、祝い事や休日にだけ食べることができた。お腹いっぱい肉料理を楽しんだ翌朝、マンマたちは残ったお肉をかき集めてカプネットにした。
牛、豚、鶏の肉、サラミ、ハム、なんでもあり。アクセントには山に自生するハーブやスパイス、そして熟成がかなり進んで固くなったチーズも削り入れる。文字どおり農家で出来るもの全てがこの小さなキャベツの葉の中に納まっているのだという。
今では生活も豊かになり、お肉もいつでも食べられるようになったけれど、主婦の知恵の詰まったこの料理は、食べものを無駄にしないばかりでなく、今でも子供から大人にまで喜ばれる一品。だから彼女はこの料理が好きだという。
「生き生きした緑のキャベツがあるとね、冷蔵庫の扉をあけて何があるかなぁって、見ちゃうのよ」
これまで小口の上品なサイズのカプネットを見慣れてきたためか、ズィータのふっくらした手からキャベツの上にころりと転がり落ちる肉団子の大きさに驚く。
後日、郷土文化研究のバイブル、ターヴォ・ブラット著『火のある家』を繙く。
「カプネットの名は、(葉を紐で結ばないといけない程)大きな肉団子から由来」と書かれていた。じゃあ、あの去勢鶏の説は一体? 料理も日常生活との交わりが深いほど、その名の由来にも様々な説が生まれる。
ズィータがフライパンの上でくるくる返していたカプネットたちは、本来の姿により近いものに違いない。マンマがつくったのだもの、洒落たお惣菜店のそれとも、馴染みのロールキャベツとも全く違う。ふっくら、しっとり、風味もほわり、口にほうばる皆の顔から笑顔がこぼれる。
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
作り方
下ごしらえ
- キャベツの葉を外側から破らないように一枚ずつ外す
- 大きめの鍋に水1.5から2リットル入れ塩を一つまみ加えて沸かし、
- お肉を包める柔らかさになるまでキャベツを茹でる
- 茹でたキャベツは布巾の上に広げて水気を切っておく。
作り方
- パンを牛乳に浸して柔らかくしておく。
- ローズマリーとセージを細かくみじん切りにする。(写真a 参照)
- 1のパンを手で絞り水分をきっておく。
- 大きめのボウルに分量のひき肉、グラナ・パダーノを削ったもの、卵、牛乳で柔らかくしたパン、ローズマリー、セージ、塩こしょうを入れ最後にナツメグをおろし金などで削り入れる。(粉末で販売されいるものでも可)(写真b 参照)
- 材料が渾然一体になるまで手でよくこねる。(写真c 参照)
- 芯の部分をとったキャベツの葉のつけ根部分に団子状に丸めた5の肉を置き、つけ根部分を少々持ち上げ、両脇を折り、最後にぐるりと巻き上げる。(写真d,e 参照)
- 大きめのフライパンにオリーヴオイル、バター、ニンニクを入れて温め、6をこんがりきつね色になるまで焼く。(写真f 参照)
- 最後に白ワインを振りかけ、水分を飛ばしたら出来上がり!(写真g 参照)