お料理説明・背景
ビエッラの農家では、8月15日にポレンタにチーズとバターを練り込んだポレンタコンチャを振舞うのが習わしだ。でも、さすがに彼らでも真夏のポレンタは胃にこたえるし、むしろリグーリアの魚料理に憧れる。
ところが、肌に触れる冷たい朝風が秋の訪れを告げたとたん、彼らの腹時計がこの黄金の粉の名を連呼しだすらしい。
『イタリア好き』ピエモンテ州号のページを楽しそうに繰っていたズィータがふと視線を上げて言った。「あら、ポレンタが出てこないじゃない ! 」
息子二人と娘一人を育て上げ、孫に囲まれて悠遊年金暮らしの彼女は夫のマウリツィオと村の老人たちの世話であっちこっち走り回りっているから、毎日一度は村のどこかで彼女を見かける。心根が優しく、段取りも手際もテキパキ、道で彼女の笑顔にほっとできる、そんな人。
「そうよ、ポレンタにしましょう。タラの塩漬け(バッカラ)が良いわ!昔から海のないピエモンテで食べることのできた数少ない魚よ。豪勢にいきましょ!初秋だから菜園で新鮮なパセリを摘んで、ふんだんに散らしてピエモンテ風メルルッツォよ」
(ズィータ、あなたの体がポレンタを欲しているのか、、、)
ピエモンテーゼの食卓には欠かせないポレンタ。ビエッラの山で酪農を営むマルガリたちの命の保存食。味わいや食感がともすると日本人には敬遠されそうなこの地味で厄介な粉をソウルフードに挙げるピエモンテーゼは少なくない。その味わいを噛み分けられて初めてピエモンテの食文化を理解できたといえ、ピエモンテの人々からピエモンテ好きと認めてもらえる。とにかく奥が深いのだ。火から下ろしたばかりの銅鍋から取り分けたアッツアツのポレンタには、主張の強い食材が主役の煮込み料理を添えないと負けてしまう。身の引き締まったタラをトマトとさっと煮る。
でも肝心なのは最後に振りかけるイタリアンパセリの量。香りづけでも色を添える為でもなく、塩の効いたタラの上でパセリです ! とその量で語ってくれなければピエモンテ風とは言えない。ポレンタにカウンターアタックされてしまうからだ。だが、イタリアンパセリが胃もたれする人も多いから、別皿にして各々好みでかけてもらおう。
「この料理はね、昔はもっとパセリで緑色をしていたのよ。味を人に押し付けたら母親とは言えないわね。そのへんを賢く捌いてなんぼよ ! 」
ピエモンテ州在住。農林水産省を退職後2000年に渡伊。静かな山村に暮らし、農・経・食文化コーディネートでイタリア全土を駆け巡る。
材料
タラの煮込み(4人分)
・タラの塩漬け | 800g | 手に入らなければ生のマダラ | |
---|---|---|---|
・トマト | 小10個程度 | またはトマトピューレ2缶 | |
・ニンニク | 2かけ | ||
・揚げ油 | 適宜 | ||
・小麦粉 | 適宜 | ||
・玉ネギ | 1個 | 赤玉ネギでなくてもよい | |
・アンチョビ | 5切れ | ||
・白ワイン | 1/2カップ | ||
・イタリアンパセリ | 1束 | ||
・オリーヴオイル | 適量 | ||
・塩、こしょう | 適宜 | タラの塩漬けを使う場合は塩はほとんど使わない |
ポレンタ
・ポレンタの粉 | 黄色:500g | |
---|---|---|
・水 | 1.5リットル | |
・オリーヴオイル | 適量 | |
・塩 | ひとつまみ |
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作り方
下ごしらえ
- タラの塩漬けなら水を替えながら丸1日塩抜きし、生のマダラ等なら表面に塩をし、一晩冷蔵庫で休ませ、使う前に塩を洗い、良く水を切っておく。
- トマトは湯むきをした後、鍋にオリーヴオイルをしいてニンニクを炒め、粗めに刻んだトマトを入れて煮込みソースにしておく。
作り方
- フライパンにオリーヴオイルをしいてニンニクを炒め、アンチョビを入れてオイルに溶けるまで弱火でゆっくり炒める。
- 玉ネギをみじん切りにして1に加え、透明になるまで炒めたところに白ワインを加えて水気が飛ぶまで炒める。 (写真a 参照)
- 2にトマトソースを加える。 (写真b 参照)
- 6~7cm幅に切ったタラに塩・こしょう、小麦粉をまぶし、深手の鍋にたっぷりの揚げ油で表面をからっと揚げる。(写真c 参照)
- キッチンペーパーで油気をとったタラを3に加え、丹念に返しながら煮る。
- みじん切りにしたイタリアンパセリを振りかけて出来上がり ! (写真d 参照)
(”パセリ好き”のためにさらにパセリを別の小皿に用意 ! ) - ポレンタを作る。
銅鍋(なければ厚手の深鍋)に分量の水を沸かし、オリーヴオイル、塩ひとつまみを入れ、強火のままポレンタを泡だて器でだまにならないようにかき混ぜながら素早く加える。(写真e 参照) - 蓋をし、弱火で約45分程度加熱。
- 鍋表面のポレンタを残したまま、ポレンタに完全に火が通るまで10分ほど練り込むように混ぜ続けて出来上がり。鍋表面のおこげは香ばしいおやつになる。