シチリアのある朝。 ハードな散歩道とサボテンの迷路。
3月初め。シチリア。ピアッツァ アルメリーナの風はすこし冬のにおいがした。
今回の取材が僕にとって初めてのシチリア上陸だった。
旅立つ前、シチリアのイメージは海と水分の少なそうな赤茶けた岩場。
過去の日本の雑誌のシチリア特集の印象や映画「ニューシネマパラダイス」を、
高校生の頃から何度もビデオで観ていたので海の残像が頭にある。
オープニングのサルヴァトーレの実家のまどから見えるあの海のイメージ。
ピアッツァ アルメリーナはシチリアの内陸だ。
海はない、赤茶けた岩場もない。
あるのは新緑のゆたかな丘陵地帯、富士山のような端正な稜線と雪を冠したエトナ山、
深緑の波がどこまでもつづくようなフィーコ ディ インディア(サボテン)の畑。
そうだしシチリアは大きな島だった。
自分が意識的に、また無意識的に収集した情報なんてものは、
いつも役に立たないと思わされる。
その場所に行かなければなにもわからないのだ。良い意味で期待は裏切られる。
小鳥たちがジュクジュクと鳴きじゃくる、ピアッツァ アルメリーナの早朝。
どこに行ってもイタリアにはいつも鳥達がたくさんいる。
夜が明けて間もない寒色と暖色の空のグラデーション。
同じ部屋に泊まる松本さんがジョギングに行くというので、1本のフィルムとカメラを持って朝の散歩に出かける。
宿泊先のアグリツーリズモの敷地内の農道のゆるやかな登り坂を、
松本さんは僕の先をかるい調子で走っていく。
僕は写真を撮りながらゆっくり歩く。
可憐に咲く道端の花が朝日に照らされているのなんかを撮りながら。
道の行き止まりで松本さんと合流すると、
松本さんが「帰りは遠回りして行こう」と言うので畑の道無き道をおおきく迂回して宿に戻る事にした。
そら豆がたくさん植えられた畑を登ったり下ったり、すこしの高低差で景色は、光の角度で変わる。
早くも夜露でスニーカーが濡れている。
ときどきカメラのシャッターを押す。
しばらく歩くとフィーコ ディ インディアの広大な畑に出た。
そのサボテンは木のように太い幹と大きな動物のような立体感をもつ。
腐りかけた幹を見る。それは皮膚病の大きな馬を連想させる。
畑は日当りを考えてかすこし勾配の強い斜面にある。
フィーコ ディ インディア達の群のなかを上へ下へ歩き回っていると、
不思議な迷路の中に閉じ込められたように感じた。
ちいさな野生の桜の花やみかんの実を見、小さな川を飛び越え、
木々のトンネルの小径を抜けたらアスファルトの地面になった。
朝の散歩という名の小さな旅は夜露と土が着いたスニーカーがアスファルトを踏んだ時、終わりを迎えた。
建物があるところまで辿り着く。
「お帰り、おはよう」。すでに顔見知りの大きく賢い宿のジャーマンシェパードが、
大きなしっぽを千切れんばかりに振って我々を待っていた。
われわれも「ただいま、おはよう」とこたえた。もちろんイタリア語で。
とりあえず水が飲みたい。
フォトグラファー 萬田康文
3月初め。シチリア。ピアッツァ アルメリーナの風はすこし冬のにおいがした。
今回の取材が僕にとって初めてのシチリア上陸だった。
旅立つ前、シチリアのイメージは海と水分の少なそうな赤茶けた岩場。
過去の日本の雑誌のシチリア特集の印象や映画「ニューシネマパラダイス」を、
高校生の頃から何度もビデオで観ていたので海の残像が頭にある。
オープニングのサルヴァトーレの実家のまどから見えるあの海のイメージ。
ピアッツァ アルメリーナはシチリアの内陸だ。
海はない、赤茶けた岩場もない。
あるのは新緑のゆたかな丘陵地帯、富士山のような端正な稜線と雪を冠したエトナ山、
深緑の波がどこまでもつづくようなフィーコ ディ インディア(サボテン)の畑。
そうだしシチリアは大きな島だった。
自分が意識的に、また無意識的に収集した情報なんてものは、
いつも役に立たないと思わされる。
その場所に行かなければなにもわからないのだ。良い意味で期待は裏切られる。
小鳥たちがジュクジュクと鳴きじゃくる、ピアッツァ アルメリーナの早朝。
どこに行ってもイタリアにはいつも鳥達がたくさんいる。
夜が明けて間もない寒色と暖色の空のグラデーション。
同じ部屋に泊まる松本さんがジョギングに行くというので、1本のフィルムとカメラを持って朝の散歩に出かける。
宿泊先のアグリツーリズモの敷地内の農道のゆるやかな登り坂を、
松本さんは僕の先をかるい調子で走っていく。
僕は写真を撮りながらゆっくり歩く。
可憐に咲く道端の花が朝日に照らされているのなんかを撮りながら。
道の行き止まりで松本さんと合流すると、
松本さんが「帰りは遠回りして行こう」と言うので畑の道無き道をおおきく迂回して宿に戻る事にした。
そら豆がたくさん植えられた畑を登ったり下ったり、すこしの高低差で景色は、光の角度で変わる。
早くも夜露でスニーカーが濡れている。
ときどきカメラのシャッターを押す。
しばらく歩くとフィーコ ディ インディアの広大な畑に出た。
そのサボテンは木のように太い幹と大きな動物のような立体感をもつ。
腐りかけた幹を見る。それは皮膚病の大きな馬を連想させる。
畑は日当りを考えてかすこし勾配の強い斜面にある。
フィーコ ディ インディア達の群のなかを上へ下へ歩き回っていると、
不思議な迷路の中に閉じ込められたように感じた。
ちいさな野生の桜の花やみかんの実を見、小さな川を飛び越え、
木々のトンネルの小径を抜けたらアスファルトの地面になった。
朝の散歩という名の小さな旅は夜露と土が着いたスニーカーがアスファルトを踏んだ時、終わりを迎えた。
建物があるところまで辿り着く。
「お帰り、おはよう」。すでに顔見知りの大きく賢い宿のジャーマンシェパードが、
大きなしっぽを千切れんばかりに振って我々を待っていた。
われわれも「ただいま、おはよう」とこたえた。もちろんイタリア語で。
とりあえず水が飲みたい。
フォトグラファー 萬田康文