最新号

Il pane cambia la vita
パーネは人生を変える

小麦と水と酵母。
たったこれだけで起こる変化が、人の生活を変え、人の価値観を変えてしまう。

薪ストーブの匂いと温もりに包まれて
取材拠点にしていたアメリアのアグリトゥリズモ「サン・クリストフォロ」は冬季休業中で、僕たちの他に客はいない。食事の準備を手伝って(好き勝手にやっていただけだが)、食堂の奥にある小さなテーブルで、オーナーのジュリオさんと麻衣子さん夫妻と一緒に食事をする時が、至福の時間だった。

取材は好天に恵まれ、順調に進んでいた。日中は温かく気持ちのよい春の陽気だが、日が暮れて8時を過ぎた夕食の頃なるとストーブや暖炉の火が恋しい。テーブルの横の古い薪ストーブに火を点けると、薪の焼ける匂いと共に、部屋を段々と柔らかな温もりに包んでいく。

ジュリオさんのワインと鹿肉のサルシッチャ・セッキをかじりながら、取材先でもらったいくつものパンを味見する。そのまま食べて、ストーブの上で炙って食べて、自家製オリーヴオイルをかけたブルスケッタにして食べて、かみしめるごとに、それぞれの個性がしみてくる。そして、ストーブに薪をくべ、炎を見ながら取材を振り返り、考える。
自分はどこに価値観を見出し、保ち、生きているのか。

パンと歩む豊かな人生
小麦を作って売るだけでは厳しいからと、50歳からパンを焼き始めたラルゲッティさんは、62歳になった今も生きいきと輝き続ける。
伝統を守るために、亡き母の遺志を継いで、パンを焼く決意をしたパオロさんは、味の再現に苦労したからこそ、守るべきものの価値を知った。
クリスティアーノさんは、大都会の生活から一転、田舎で小麦を作り、パンを焼く生活を始め、金にはかえられない毎日を豊かに過ごしている。
伝統を守る人、新しい道を切り拓く人それぞれだが、そこには、毎日の繰り返しの中で起こるパンの変化に魅せられ、没頭する姿があった。

「単純であるがゆえに、難しい。」とは、大豆と水とにがりだけで日本の伝統的な豆腐を作る職人が言っていた言葉。だからこそ腕や経験が必要になるのは当然だが、それよりももっと大切なことは、自分がいかにシンプルでいられるかどうかだろう。
パンや豆腐は、きっとそれを教えてくれるのだ。

自由に、もっとシンプルに
小麦に耳を傾け、小麦の声を聞き、
小麦の導くままに。
人と小麦が出会った時から、人が小麦をコントロールしてきたのではなく、小麦に人がコントロールされてきたのかもしれない。
流れのままに動き、生きる。
自由に形を変えて燃えるストーブの炎のように。
逆らわず、迷わず、もっとシンプルに。

パーネは人生を変える。
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