バジリカータ州(白旗 寛子)

サッシ地区でレッドブル®のフリーランニングの競技大会  世界遺産登録から26年、「フリーランニングの聖地」となるか?!

南イタリアでレッドブルと言えば、プーリア州の海リゾート、ポリニャーノで開催されるクリフ・ダイビングでした。

が、2019年はこれ「レッドブル・アート・オブ・モーション2019」。世界遺産「サッシ」地区を舞台に、世界のトップアスリート18名が、パフォーマンスを競い合いました。

https://www.redbull.com/より


かっこよすぎる公式トレイラーはこちらから。

フリーランニングって言うんですねえ。最近もマテーラの大聖堂近くでギリシア様式の壺(紀元前4C頃とみられる)が発掘されたばかりですが、2千年以上かけて築かれてきたサッシ地区の都市構造は、図らずもこの21世紀生まれの競技にぴったりです。

 

にわかファン、レッドブル・アート・オブ・モーション2019へ

土曜の13:30開始という、昼ご飯・命のマテーラ市民には「ありえない」時間帯と、直前までの小雨にも関わらず、特設ステージを視界におさめる良い場所はあまねく黒山の人だかり。フリーランニングという競技の、この集客力よ。

かくゆう私も、名前も知らない競技の魅力を前にしては、誘蛾灯の蛾のように、巨大モニターが設置された特設ステージ前へ。


リモンチェッロのプロセッコ&オーガニックトニック割りという不思議なドリンクを買い込んで、いざ観戦です。


 

初めてのフリーランニング

フリーランニングは、持ち時間90秒の間で、「difficulty 難易度」「execution 出来栄え」「flow 流れ」「creativity 創造性」「overall impression 総合的なインパクト」の5項目の総合ポイントを競う模様。

フィギュアスケートのように、パフォーマンスが終わるごとに審査員から得点が発表され、そしてフィギュアスケートのように、ルールを知らなくても、わいきゃあと盛り上がれます。

上の公式トレイラーにも出演しているNAPC2019王者のドミニク・ディ・トマーソ選手(オーストラリア)


大柄な選手が有利というパルクールに対して、アクロバティックなフリーランニングでは小柄な選手が有利らしく、女性選手も4名いましたよ。しびれちゃいます。

日本人も得意そうだ…と適当なことを考えておりましたら、いました!ミヤザキ ユライ選手。ビデオ選考にエントリーした100人以上の中から、審査員をうならせた男子上位4名の1人とのこと。

世界中にライブ配信された大会の模様は、一見の価値があります。

 

世界遺産地区でフリーランニング 是か?非か?

サッシ地区の段々畑に屏風を並べたような都市構造が、図らずも21世紀生まれのフリーランニングに、ばしっとハマりました。

「アート・オブ・エモーション2019」を一目見ようと、世界中から愛好者やファンが多く詰めかけ、前日の夜から、町にはフリーランナーっぽい様子の若者の数が目に見えて上昇。わたしのようなザ・にわかファンも巻き込んで、大いに盛り上がりました。


その一方で、大会直後のSNSでは、「フリーランナーおよび観衆が破損した」として壊れたブロック塀や屋根瓦の写真の投稿が物議を醸しました。またサッシ・ファウンデーションという社団法人が、サッシ地区の保全の観点から、サッシ地区でのフリーランニング反対を訴えました。

それに対して、

「(1952年のサッシ地区からの立ち退き令以降)30年以上もサッシ地区など見向きもせず、荒廃させた時代もあった」
― 世界遺産登録のずっと前からサッシ地区に住んでいる友人

「建物の外壁は、壊れたら二度と換えが効かない芸術作品とは違う。補償が整えられれば、大いに賛成」
― は16年間サッシ地区に住む友人

と言う意見もありました。

 

これは高度に政治的な問題だ

サッシ地区が世界遺産に加え、パルクールやフリーランニングの聖地となるのは、長い目でみると良いことではないか?と私は考えています。

アート・オブ・エモーション2019は、マテーラはもとよりイタリア国内でも初めての開催でした。新しい試みには、ふたを開けてみてからの課題はつきものです。

これ、まず市と主催企業が、愛好者に「世界遺産であり住宅地であること」を周知徹底し、罰則と損害があった場合の補償規定を設けるなどして、クリアできないものでしょうか?

市は思い切ってプレイエリアや利用時間も限定すれば、見たい!という人もフリーランニング遭遇率が高くなります。保全協力金として、使用料を徴収するのも有りかもしれません。

左:Josh Malone選手(USA)、中央:決勝ラウンドに進出したCharles Luong選手(スイス)。終了後、興奮で鼻息の荒いおばちゃん二人にも、気さくにフォトセッションに応じてくれた。


問題を改善するチャンスも与えないまま、短期合理的に反対!ゆえに今後一切の大会はなし!として、将来の「フリーランナー憧れの場所」の称号を手放すには、あまりにもったいない。

 

新しい価値が定着するには時間がかかる

サッシ地区だって…

1945年に出版された書物の中で、ダンテの地獄編に例えられ、
1948年には国家の恥とまで言われ、
1952~1968年、政府主導で立ち退きが続き、荒廃
1980年代の伝統文化の再評価のムーブメントを経て、
1993年には一転、世界遺産に登録。
2019年 欧州の文化の首都イヤー



「私たちはマテーラにぞっこんです」と書かれたビスケット会社の広告。Cottiは「惚れる」の他、ビスケットなどを「焼く」と言う意味があり、言葉遊びになっている。こんな広告がお目見えするのも、「マテーラ」に良いイメージがあればこそ。


そして将来「マテーラ出身です」と言えば、「ああ、フリーランニングの!」と認知されるようになれば?

開催する度に、きっとまた別の問題が持ち上がるんでしょうが、その度に微修正していったらいい。フリーランニングの是非について、20年後、30年後まで見据えた市民間の議論があるといいなと思います。

 

ちょっと旅したくなるような、マテーラまわりのとっておきをお伝えします。

白旗 寛子(Hiroko Shirahata) 2003年渡伊、同年よりマテーラ在住。取材コーディネーター、通訳、翻訳、寄稿(伊語/日本語)を軸に、地域のよろずプロモーターでありたい。

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    2014年よりピエモンテ州ポレンツォ食科学大学・修士課程非常勤講師(Master in Gastronomy in the World 日本の食文化:日本酒・茶道)。福島の子どもたちのイタリア保養「NPOオルト・デイ・ソーニ」代表。
    Instagram https://www.instagram.com/morimicucinetta/
    Instagram Casa Morimi https://www.instagram.com/casamorimi/
    カーサ・モリミ株式会社  http://www.casamorimi.co.jp/
    NPOオルト・デイ・ソーニ http://www.ortodeisogni.org
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    池田 美幸(Miyuki Ikeda)1986年よりイタリア在住。ミラノに住んでいるが、週末になるとイタリアで一番大きいステルヴィオ国立公園内にある山小屋へ逃避。日本で農学部を卒業。イタリアで手にしたチーズティスター・マエストロ、公認ワインティスターの資格を活かし、通訳、コーディネーターとして活躍中。
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    ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。各種生産者との繋がりをとても大切に、ヴェネト州の驚くほど豊かな食文化を知ってもらうべく、ブログ『パドヴァのとっておき』では料理や季節のおいしい情報を中心に発信するなど活動中。