ピエモンテ州(岩崎 幹子)

トルタに託したイタリア女性たちの夢

目に入った瞬間に『おいで、おいで』をしてくる面構えのお店はどんな街にもあるものです。
『さあ、この店なら貴方の求めているものが必ずや見つかるはず!』と保証しているかのような。
例えばピエモンテの小さな町にトルタが売りのこのカフェ。
(前回試したリコッタケーキは、搾りたての乳の風味と舌に触るドライフルーツの存在感が期待どおりだった。)
そう思い出しながらほくそ笑んで、ああ、今日はどれにしようかと品定を始める。リコッタやチョコレートなど定番ものに、季節感あふれるフルーツのケーキなど季節メニューでバラエティーに富んだトルタ、お昼時にはミニピザやサンドイッチもショーケースに所狭しと並びます。
、、、と、ふと視線を上げれば黒光りしたマリアージュの紅茶の缶が並ぶ棚の前で、恰幅の良いエプロン姿のおばちゃんがこちらを見据え「さっ、何にします!?」と、迫ってきた。味のある店にはスタッフもお客もしっかり仕切るこんなパーソナリティがいるもの。
慌ててオレンジピールの艶も色っぽいチョコレートケーキを注文をしながら視線を走らせて空いたテーブルを探し腰を下ろして一息つけば、今日のプチ幸せな時間の始まりです。
んんんっ!やっぱりこってりまったりのチョコに、オレンジの酸味がたまりません!

ビエッラの中心部に開いたケーキとお茶が自慢のカフェテリアその名も『La Torteria(ラ・トルテリア)』。おばちゃんはお店の顔、スタッフみんなのマンマ、ホール責任者のエリーザさん。でも、このお店の成り立ちはちょっと変わっていて、オーナーは甘党の若手弁護士の二人組フランチェスカとルーカ。
「見た目は無骨で家庭的でも、口にしたら満足度抜群のトルタが食べられる、カップになみなみ注いだ熱く美味しいお茶といっしょに。そんな朝食が楽しめるお店がどうして自分の町にはないんだろう?ってずっと不満だった。ならばと自分たちで作ればいいと、仕事で独り立ちができた時にこの店を開きました。」と、フランチェスカ。

大好きなお茶の仕入れはフランチェスカ自身が担当。緑茶も大好き。日本に自ら買い付けに行くほどのお茶好き。抹茶も立てる。
「この人ったら、高級なお茶でも気に入ればどんどん買いつけてくるから、心配で!」

と、フランチェスカの隣でエリーザおばちゃんが笑います。確かに選ぶのに困るくらい充実のティーメニューはパリのカフェにも引けを取らない。そういえば店内の雰囲気もパリ風。予算節約のためにフランチェスカのマンマが担当したという内装は、どのアングルも絵になるし、テーブルに着くとその小さな空間に自分の体にしっくり収まって居心地が良い。朝の開店時間から夕方まで人の流れに切れ間がありません。

そんな小さなサクセスストリーを持つお店で働くのは女性6人。ホール3名、工房に3名。ホール責任者のエリーザを除けば、オーナーのフランチェスカのようにみな2足の草鞋。例えば、パティシエ嬢のエリーザはファッションジャーナリスト。ケーキ作りが大好きで、午前は工房で粉にまみれ、執筆業は午後から。
洋菓子学校で研修を受けたのはモロッコ人のブシェラちゃんだけ。でも大事なのは経験と、皆、独学で腕を磨いて工房に立っています。一仕事の終わった午後の落ち着いた時間に工房を訪ねるときちんと片付いたピカピカの調理台、大きな壁かけの時計の下に並んだナッツ類の並んだ棚。あの幸せなトルタたちを育むゆりかごはここなんだと頷けます。
写真提供(Elisa Rama)

『工房に遊びに来るなら朝が一番!楽しいものがたくさんあるのよ』とアリアンナちゃん。
                  写真提供(Elisa Rama)

「僕とフランチェスカは法律屋としては労働環境整備が専門分野。当然お店のスタッフの職場環境を保証することもしっかり考えました。スタッフが自分の仕事に情熱を感じて店に勤務してもらうことが最後にはこの店がお客さんに喜んでもらうための秘訣だと思うんです。」と黒一点、経理など裏方担当のルーカ。

2019年10月10日、それは彼らにとって新しい挑戦の日。
ビエッラから車で1時間のヴェルチェッリの街、カヴール広場の外れ、パブやワインバー肉屋なんかが並ぶ魅力的な小さな路地に2号店をオープンさせました。
ここでビエッラの店と同じクオリティのトルタにお茶、てきぱきとしたサービスを提供していこうと皆やる気満々!
「ビエッラの工房から運ぶトルタと一緒にあたしたちもヴェルチェッリに通いよ!」とエリーザおばさん。
「どうしてヴェルチェッリかって?トリノやミラノといった大都市での展開は全く考えていません。だってビエッラでこのお店を開店したそもそもの動機が小さな街に小さな幸せをってことだったから。」
女性ならではの力が実を結ぶ例は日本でも多く目にしますが、今回はイタリアでもウーマンパワーの相乗効果で力強く展開できた美味しくって素敵なエピソードをお伝えしました。

[ショップデータ]
La Torteria

ビエッラ店
住所 Via Del Pozzo, 2  Biella
Tel +39 015 099 1291
ヴェルチェッリ店
住所  Via dei Mercanti 11
Tel  +390161 185 0070

いずれも 営業時間 7:30から17:30 定休日:日曜日

届けます、掘っても尽きないイタリアの季節の宝、朗らか人生を!

岩崎 幹子(Motoko Iwasaki) ピエモンテの静かな山村で狼を友に夫と暮らす。郷土に根差し胸を張って生きる人たちとの縁に恵まれ、農業・経済・文化コーディネートの他、執筆活動を続ける。

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  • 老舗4ツ星ホテル日本人妻がお届けするアマルフィ海岸の魅力
    竹澤 由美(Yumi Takezawa) アマルフィ海岸でのウェディングと観光コーディネート会社Yumi Takezawa & C S.A.S.代表。B&B A casa dei nonni オーナー。 2013年よりアマルフィ市の日本との文化交流コーディネーター。 ロンドンで知り合ったアマルフィ海岸ラヴェッロにのホテルルフォロ四代目との結婚を機に2004年渡伊。 二児の母親業を通じ、濃い南イタリアマンマ文化の興味深さを肌で感じている。 Instagram
  • トスカーナ州シエナ在のソムリエです!ワインやシエナの情報をお届けします!
    鈴木暢彦(Nobuhiko Suzuki) トスカーナ州シエナ在住。2009年渡伊。シエナの国立ワイン文化機関『エノテカ・イタリアーナ』のワインバー・ワインショップにて5年間ソムリエとして勤務。2015年~2018年までシエナ中心街にてイタリア人と共同でワインショップを経営。現地ワイナリーツアーも企画し、一般からプロの方までのアテンドで100軒以上のワイナリーへ訪問。また、日本へのイタリアワイン輸出入のサポート業務も行い、イタリアワインの日本マーケットの構築に貢献している。イタリアの著名醸造家ヴィットーリオ・フィオーレ氏、パオロ・カチョルニャ氏が手がけるワインも日本へ紹介。資格・・・AISソムリエプロフェッショニスタ。 シエナ観光・ワイン情報サイト『トッカ・ア・シエナ』
  • 山と海に囲まれたリグーリア州の今一番旬な情報をお届けします!
    大西 奈々(Nana Onishi) 2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。
  • 心はいつも旅人!
    赤沼 恵(Megumi Akanuma) コロンブスを始め沢山の旅人を生み出した街、ジェノヴァ。そのジェノヴァを中心としたリグーリア州で起こるホットなニュースをお届けします。音楽家、翻訳家、日本語教師、2018年3月ジェノヴァ市長より「世界のジェノヴァ大使」任命、アソシエーション「DEAI」代表。
  • ミラノの食と暮らしの旬をお届けいたします!
    小林 もりみ(Morimi Kobayashi) 手間と時間を惜しまず丁寧につくる品々、Craft Foodsを輸入する「カーサ・モリミ」代表、生産者を訪ねながら、イタリアの自然の恵みを日本へ届けている。2008年 イタリア・オリーブオイル・テイスター協会『O.N.A.O.O』(Organizzazione Nazionale Assaggiatori Olio di Oliva)イタリア・インペリアの本校にてオリーブオイル・テイスターの資格取得。2009年スローフード運営の食科学大学( Universita degli Studi di Scienze Gastronomiche)にて『イタリアン・ガストロノミー&ツーリズム』修士課程修了。
    2014年よりピエモンテ州ポレンツォ食科学大学・修士課程非常勤講師(Master in Gastronomy in the World 日本の食文化:日本酒・茶道)。福島の子どもたちのイタリア保養「NPOオルト・デイ・ソーニ」代表。
    Instagram https://www.instagram.com/morimicucinetta/
    Instagram Casa Morimi https://www.instagram.com/casamorimi/
    カーサ・モリミ株式会社  http://www.casamorimi.co.jp/
    NPOオルト・デイ・ソーニ http://www.ortodeisogni.org
  • イタリアのチーズとワインのエキスパート、そしてイタリアの山のことならお任せ。
    池田 美幸(Miyuki Ikeda)1986年よりイタリア在住。ミラノに住んでいるが、週末になるとイタリアで一番大きいステルヴィオ国立公園内にある山小屋へ逃避。日本で農学部を卒業。イタリアで手にしたチーズティスター・マエストロ、公認ワインティスターの資格を活かし、通訳、コーディネーターとして活躍中。
  • ヴェネトの美味しいとっておき情報をお届けします。
    ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。各種生産者との繋がりをとても大切に、ヴェネト州の驚くほど豊かな食文化を知ってもらうべく、ブログ『パドヴァのとっておき』では料理や季節のおいしい情報を中心に発信するなど活動中。