ヴェネト州(白浜 亜紀)

フリウリの山間にて味わう最高の「Cjarsòns(キャルソンス)」

イタリアの最北西、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州を代表する料理の筆頭となる、この料理。名前もなんだかイタリア語なのかどうか…と疑問に思うようだが、この地は古くから時代を追って多くの民族の侵入があり、また、オーストリアとスロヴェニアを国境を持つ地域として、現在でも非常に独自の文化を持つ特異な州といえる。州名の「フリウリ」はウーディネ方面を、「ヴェネツィア・ジュリア」地域はトリエステ方面の総称となり、イタリア国内にはよくある話ではあるが、お互いにその文化を共有することは彼ら自身が否定するところだ。

そして、さらにこれらとは、またまた一線を画する地域が同州内「カルニア」地区。オーストリア国境に面する山間の地区。ここには、さらに独特の文化が根付いており、食文化も非常に特徴あるものだが、同時にこの地区の料理が同州ならではの郷土料理として知られる例も多い。

そのひとつが「Cjarsòns(キャルソンス)」だ。


もともとフリウリ地方には、「訛り」とはまた違う独自言語ともいえる「フリウリ語」というのが存在する。「フリウリ語-イタリア語」辞典も本屋に普通に並ぶくらいだ。
同料理名「Cjarsòns」もなかなか発音が難しいものではあるが、その料理名の由来を聞いてみると…。
よく言われるのは、詰め物をしたピッツァの「Calzone(カルツォーネ)」や、小物などを入れてしまっておく引き出しを意味する「Casetteriera(カセッテッリエラ)」など。いずれも詰め物をした料理というところからくるようだが、実はそうでもないらしい。または、カルニア地方を意味する「Cjarnion(チャルニオン/キャルニオン)」から派生する、等…。この地方の料理をよく知る長老的人物に話を聞いても、どれもこれも真相ではない、という。

そして、もちろん土地料理ならでは。各人、各家庭の伝統の味、手法があり、それぞれに受け継がれてきたものであるから、ひとつのレシピとしてこの料理が収まることはまず、ない。

私個人として、いくつかのキャルソンスを食べてきたが、信頼できる一皿を見つけた。それを作ってくれるのが、同地区、Forni Avoltri(フォルニ・アヴォルトリ)にて、ホテルとレストランを経営するマンマであり、シェフである、Tiziana Romanin(ティツィアーナ・ロマニン)さんだ。

オーナーシェフのティツィアーナさん。厨房での右腕、ジョヴァンニさんと。


1908年にこの地でオステリアを開いてから100年以上も続く家系。一人娘であったティツィアーナさんは、やはり現在の彼女のように、この店を引っ張ってきた彼女のお母さんからその全てを受け継いできた。

緑に囲まれたホテル・レストラン


大きな窓からみえる景色を見ながら食事を


この地では、野菜も肉類も、もともとは現地調達。野菜は建物横にある畑から、食用とする肉は信頼のできる知り合いの農家から、ジビエの季節には必ず土地のものをハンターから…それらの素材を大切に、自然への礼を込めて丁寧に、且つ正確に扱う技法・技術、そしてお客様へのホスピタリティ等々、ホテル及びレストラン経営を続けていくうえに大切なスピリットを全て譲り受けた、と自覚している。

最愛のお母さんとの写真。店内に飾ってある。


主要都市からはかなり離れた場所にあるが、夏や冬のバカンスシーズンはもちろん、その季節以外でも、よくもこんなところに…と思うほど、常に多くの客で店が埋まる。土地柄、たまたま寄った、という感じの客は皆無であり、ほぼ全ての来客はここを、そして彼女を知って訪れる。

周囲の景色も自然いっぱいで美しい


前置きばかりが長くなったが、肝心のこの料理とは…。

同料理はいわゆる詰め物パスタ。ただし、中身を包む生地はニョッキのようにジャガイモが入る(もちろん入らない例もある)。
中身はこれも一様ではないのだが、甘い素材を加えていわゆるアグロドルチェな仕上がりにする場合もあるし、リコッタや野草などでサラートに仕上げる場合もある。

ティツィアーナさんのものは、生地にできる限り多くのジャガイモを入れ、口当たりをふんわりと仕上げてあるのがその特徴。
中身には、リコッタ、アマレッティ、干ブドウなどが入り、そこに欠かせないのがたっぷりと感じるシナモン。
中身の材料をこれもふんわりと仕上がるように混ぜ、それをジャガイモ入りの厚みのある生地で包む。包まれたひとつひとつは茹でて皿の上へ。そこに熱いバターをさっとかけ、さらにシナモンを添える。そして、仕上がりには削りおろした燻製のリコッタチーズが必須だ。

風味と食感が様々に融合する一皿


この甘さのある料理の所以は一時代、領地下におかれていたオーストリアからの影響、そして香辛料をたっぷりと使うのは、その前時代にこの地を支配したヴェネツィアの影響を受ける。
独特の食感と甘さ、そこに塩味や燻製香が混じり合い、さらにしっかりと感じるスパイシーなシナモンの風味。なんとも不思議な風味が一体化している。
いろいろな味や食感が融合して仕上がるこの皿は、まるでこの地に息づく異文化の融合と重なるようでもある。

これも土地のポレンタ料理「Tocj in Branda(トーチ・イン・ブランダ)」


Albergo Ristorante “Al Sole” di Romanin Tiziana

Via Belluno, 14 33020 Forni Avoltri (UD)

Tel: +39.0433.72012

http://www.alsoleromanin.it

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ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。各種生産者との繋がりをとても大切に、ヴェネト州の驚くほど豊かな食文化を知ってもらうべく、ブログ『パドヴァのとっておき』では料理や季節のおいしい情報を中心に発信するなど活動中。

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    藤原 亮子(Ryoko Fujiwara) イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー&ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。
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    鈴木暢彦(Nobuhiko Suzuki) 2009年渡伊。シエナの国立ワイン文化機関『エノテカ・イタリアーナ』のワインバー・ワインショップにて5年間ソムリエとして勤務。2015年~2018年までシエナ中心街にてイタリア人と共同でワインショップを経営。現地ワイナリーツアーも企画し、一般からプロの方までのアテンドで100軒以上のワイナリーへ訪問。コロナのパンデミック直前に帰国。現在は、代理人“アジェンテ・エンネ”としてイタリア全国の日本未進出ワイナリーのプロモーションサポートを主に行う。今後もイタリアへ渡航予定。 資格:AISソムリエプロフェッショニスタ。 シエナ観光・ワイン情報サイト『トッカ・ア・シエナ』
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    新宅 裕子(Yuko Shintaku) 週末や休暇を利用してアルト・アディジェ地方へ赴き、アルプスの麓町ヴィピテーノを拠点に、山登りやキャンプ、キノコ狩りなどのアウトドアを楽しむかたわら、フリーライターや日本語教師としても活動する。 東京のテレビ局で報道記者を務めていた2011年、オペラにはまって渡伊。カンパーニア州に1年留学の間、イタリア中を旅してその大自然や地域ごとに異なる文化、心豊かな暮らしに魅了される。数年後、イタリア人との結婚を機にヴェローナへと移住。 ガイドブックには載っていないような小さな町を巡り、ローカルな生活に浸るのが好き。インスタグラム(@yukino.it)で「旅と山の記録」を発信中。
  • とんがり屋根のトゥルッリより、プーリアの魅力と旬をお届け!
    2012年より南イタリア・プーリア州在住。伊政府認定ライセンス添乗員。世界遺産アルベロベッロにてとんがり屋根の伝統家屋トゥルッリに暮らす生活を満喫中。会社員をする傍ら、地元産のフレッシュチーズとマンマ直伝の郷土料理を主役にした「南イタリアチーズ&料理教室」を主宰。オリーヴオイルソムリエ&上級チーズテイスターでもあり、最近は伊チーズテイスティング協会にてプーリア州代表の選抜鑑定チームの一員として修業中。他にも、プーリア州の観光や食をライター活動やSNS&ブログにて発信。
  • 食、文化、イベント……プーリア、地元の人々の日々の暮らしってどんなだろう?
    江草昌樹(Masaki Egusa) 2014年より北から南イタリア各所のレストラン、トラットリア、アグリツーリズモで勤務。ミシュラン星付きレストランのスーシェフを経て、現在は、『より自由に、いつまでも経験、挑戦する生活』をモットーに活動中。YouTubeチャンネル『秋田犬サンゴin ITALY』を通しても、イタリアの生活の様子などを発信しています。
  • 山と海に囲まれたリグーリア州の今一番旬な情報をお届けします!
    大西 奈々(Nana Onishi) 2011年よりジェノヴァ在住。音楽院を卒業後、演奏活動の傍らフリーライター、旅行コーディネート、通訳などを務める。演奏会などでリグーリア州各地を周り、それぞれの街の文化や風景に魅了される。ジェノヴァ近郊の街を散策したり、骨董市巡りが休日の楽しみ。 山と海に囲まれたリグーリア州の四季折々の情報をご紹介いたします。
  • 心はいつも旅人!
    赤沼 恵(Megumi Akanuma) コロンブスを始め沢山の旅人を生み出した街、ジェノヴァ。そのジェノヴァを中心としたリグーリア州で起こるホットなニュースをお届けします。音楽家、翻訳家、日本語教師、2018年3月ジェノヴァ市長より「世界のジェノヴァ大使」任命、アソシエーション「DEAI」代表。
  • ミラノの食と暮らしの旬をお届けいたします!
    小林 もりみ(Morimi Kobayashi) 手間と時間を惜しまず丁寧につくる品々、Craft Foodsを輸入する「カーサ・モリミ」代表、生産者を訪ねながら、イタリアの自然の恵みを日本へ届けている。2008年 イタリア・オリーブオイル・テイスター協会『O.N.A.O.O』(Organizzazione Nazionale Assaggiatori Olio di Oliva)イタリア・インペリアの本校にてオリーブオイル・テイスターの資格取得。2009年スローフード運営の食科学大学( Universita degli Studi di Scienze Gastronomiche)にて『イタリアン・ガストロノミー&ツーリズム』修士課程修了。
    2014年よりピエモンテ州ポレンツォ食科学大学・修士課程非常勤講師(Master in Gastronomy in the World 日本の食文化:日本酒・茶道)。福島の子どもたちのイタリア保養「NPOオルト・デイ・ソーニ」代表。
    Instagram https://www.instagram.com/morimicucinetta/
    Instagram Casa Morimi https://www.instagram.com/casamorimi/
    カーサ・モリミ株式会社  http://www.casamorimi.co.jp/
    NPOオルト・デイ・ソーニ http://www.ortodeisogni.org
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    池田 美幸(Miyuki Ikeda)1986年よりイタリア在住。ミラノに住んでいるが、週末になるとイタリアで一番大きいステルヴィオ国立公園内にある山小屋へ逃避。日本で農学部を卒業。イタリアで手にしたチーズティスター・マエストロ、公認ワインティスターの資格を活かし、通訳、コーディネーターとして活躍中。
  • ミラノより、箸休めにファッションやデザインのお話を。
    田中美貴(Miki Tanaka) 雑誌編集者として出版社勤務後、1998年よりミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。
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    ヴェネトおよびフリウリを中心に、通訳、翻訳、地元マンマの料理レッスン及び生産者訪問コーディネイト、そして野菜を中心とする農産品の輸出業などの活動を行う。各種生産者との繋がりをとても大切に、ヴェネト州の驚くほど豊かな食文化を知ってもらうべく、ブログ『パドヴァのとっておき』では料理や季節のおいしい情報を中心に発信するなど活動中。