イタリアCINEMA好き 「ある海辺の詩人-小さなヴェニスで」



【「ある海辺の詩人-小さなヴェニスで」 アンドレア・セグレ監督インタビュー】

小さなヴェニス (La piccola venezia) とも呼ばれる、漁師町・キオッジャ(Chioggia)を舞台にした映画「ある海辺の詩人-小さなヴェニスで」(原題:Io sono Li)が、3月16日から劇場公開されます。

この作品の主人公は、中国に幼い息子を残してイタリアに働きにやってきた女性シュン・リー。キオッジャのオステリアで働くようになった彼女は、常連客のひとりである「詩人」と呼ばれる老漁師と言葉を交わすようになります。実は彼・ベーピもまた旧ユーゴスラビアからの移民であり、互いのふるさとなどの話を重ねるうちに徐々に親しくなっていくのですが、しかし、閉鎖的な小さな町で、二人の友情はあまり良くない噂になり…というストーリー。

監督のアンドレア・セグレはこれまでドキュメンタリーを手がけていて、本作が劇映画の初監督となります。昨年、監督が来日した際に話を聞きました。

舞台となるキオッジャはヴェネチアから約50キロほど南にある島で、本土とは橋で結ばれています。漁業が盛んで、庶民的な雰囲気の漂う素朴な町です。セグレ監督によれば、ここは「ゴンドラとあふれかえる観光客がいないだけで、ほとんどヴェネチアと同じ」とのこと。

「キオッジャは自分の母が生まれ、祖父母が住んでいる町。まずはこの自分のアイデンティティーに係わる町とラグーナを描きたかった。ドキュメンタリーでは外国人を主役に使うことも多かったのですが、自分がよく知るキオッジャを外国人の視点から描くのは、大きな挑戦でしたね」と語ります。

物語の中心となる二人の人物像については
「同じ移民でも、シュン・リーは地理的にも文化的にも遠い国からイタリアへとやってきたばかり。一方のベーピは元々文化の近い国から来ているうえに、すでに外国人とはいえないほど長年キオッジャに住み、なじんでいます。しかし、彼が唯一シュン・リーを理解できるのは、彼が外国人だったという過去の経験値からくるものなんです。」

しかしもちろん、国は違えど、同じ人間という側面も。
「シュン・リーは息子のために国を出て働く。母親が子供の未来のために行動を起こす。このことは世界中共通じゃないかな」
一見シンプルだけれど、すごく深いものを抱えているヒロイン、シュン・リーは、「長江哀歌」などで映画ファンに知られる中国人女優チャオ・タオが、独特の存在感で演じています。一方のベーピに扮したのは「ビフォア・ザ・レイン」のラデ・シェルベッジア。意外な顔合わせですが、名優同士だけに見事なコンビネーションをみせてくれます。
また、脇役としてシュン・リーの友人、リャンというミステリアスな存在の女性が登場しますが、監督は彼女を「観客へのスペース」として描いたそうです。つまり、リャンの行動や彼女のバックグラウンドなどはあえて明確にせず、観客に自由に想像してほしいということです。こういう含みを持たせるあたりは、いかにもヨーロッパ映画的。

さらに、映画の中では中国人組織がオステリアを買い上げてそのまま営業していますが、これも実際にあったことをヒントにしているそうです。イタリア人にとっては自分のいきつけのバールやオステリアを変えるのは非常に難しいこと。なので、最近では中国人が買い取った店を中華料理屋などには改装せずに、以前と同様の形で営業しつづけるケースが増えているそうです。その方が常連客はそのまま通いつづけるのでお互いにベターということなんですね。

異邦人同士の心の交流、彼らの目を通して見た小さな町、そしてドキュメンタリー作家らしい人物への洞察が感じられる、珠玉の作品に仕上がっています。

『ある海辺の詩人-小さなヴェニスで-』
3月16日より、シネスイッチ銀座他にて全国順次公開
©2011 Jolefilm S.r.l.- Æternam Films S.a.r.l – ARTE France Cinéma
配給:アルシネテラン

【劇場公開情報】

「日本におけるイタリア年」の今年は、イタリア関連映画も続々公開予定です。

☆公開中
『ベルトルッチの分身』
ドストエフスキーの「分身」を下敷きにしたベルナルド・ベルトルッチ初期の問題作が、長編監督デビュー50周年を記念して日本初公開。
☆4月公開予定
『孤独な天使たち』ベルトルッチ監督の約10年ぶりの新作にして、30年ぶりのイタリア語での作品。
『海と大陸』イタリア映画祭2012で「大陸」のタイトルで上映
『ブルーノのしあわせガイド』イタリア映画祭2012で「シャッラ/いいから!」のタイトルで上映
☆5月公開予定
『愛さえあれば』ピアース・ブロスナン主演、南イタリア、ソレントが舞台のデンマーク映画
☆6月公開予定
『ローマでアモーレ』ウディ・アレン監督がローマを舞台に撮りあげた恋愛群像劇
『特集上映/Viva!イタリア』ー下記3作品が上映予定
『最後のキス』『もうひとつの世界』『ハートの問題』

渡辺いさ子/ Isako Watanabe