<映画「最後の羊飼い」(L’ultimo Pastore)> 監督 マルコ・ボンファンティ Marco Bonfanti 、プロデューサー:アンナ・ゴダード Anna Godano インタビュー
ドキュメンタリー映画「最後の羊飼い」は、イタリアでも数少ない羊飼い、それも大都会ミラノ、ベルガモをベースに放牧をしている男性にフォーカスした作品で、日本では東京国際映画祭で上映されて好評を博した。 監督のマルコ・ボンファンティとプロデューサーのアンナ・ゴダードがこの作品を作るきっかけになったのは、彼らがボッコーニ大学の教授と別件で打ち合わせをしたときのこと。教授がふと「ミラノにもたった一人だけ羊飼いがいるのだけれど、なかなか見つからない。まるで忍者のようだ」と漏らしたのだそうだ。ボンファンティ監督はそれを聞き、雷鳴に打たれたような衝撃を受けた。「ぜひ、彼をカメラに収めたい」。そうして、彼は苦労の末にレナトという名の、「最後の羊飼い」を見つけ出す。初めて会ったとき、レナトは子供用のブランコに腰かけていて、「忍者どころか、まるでシュレックのようだった」と笑う。巨体に人懐っこい笑顔。レナトの話す内容は子供レベルだというが、彼が純粋に羊飼いという職業を誇りに思い、愛していることはスクリーンからも伝わってくる。 伝統的に羊飼い同志は農民に何を話しているかをさとられないために「GAI」という独自の言語を使って話す。中世から存在するともいわれるこの言語を使えるのはもはや10人ほど。レナトは映画の中で、その言葉が録音された貴重な年代物のオープンリールテープをかけて聞かせてくれる。 レナトには妻と4人の子供がいる。レナトの妻は、夫を「5人目の子供」と呼ぶ、しっかり者だ。彼女はこのドキュメンタリーの企画を聞いた時には、レナトがフリーク扱いされるのではないかと危惧したそうだ。しかし実際にはそんな心配はまったく無用で、彼女が撮影を承諾して初めてこの企画が本格軌道にのった、とプロデューサーのアンナ・ゴダードが振り返る。 作品の中にはミラノの小学生たちも登場する。スクリーンには、レナトが息子や愛犬とともに羊を従えてコンクリートの道を歩いていく風景に、「羊飼いとは何か」を語らせる小学校の授業の様子がさしこまれ、交互に映し出されていく。ほとんどの児童が、羊の群れや本物の羊飼いを見たことがない。 この作品はドキュメンタリーではあるが、監督がひとつだけ素敵な演出をしている。レナトに「ミラノの小学生たちに羊と羊飼いの姿を見せてあげないか?」と提案したのだ。それもミラノのランドマーク、あのドゥオーモ広場で。こうして撮影が実現したのが、何百頭という羊の群れが、ドゥオーモ広場を埋め尽くした圧巻のラストシーン。ミラノの小学生たちはもちろん大喜びだ。携帯電話ではなく、羊のベルの音が鳴り響くドゥオーモ広場の朝。この奇跡的な風景は現地のTVニュースなどでも大々的にとりあげられた。 レナトの血を引く子供たちは、父同様に羊や動物が大好きだ。中でも次男はすでにレナトについて羊の放牧を手伝っている様子。後継者がいるのだからレナトが「最後の羊飼い」にならないですむのではないか。そんな疑問を投げてみると、監督、プロデューサーの二人は口を揃えて、「もし我々が20年後に『最後の羊飼い2』が撮れるならそんなに嬉しいことはない。でも問題は後継者ではなく、都市開発によってどんどん土地がコンクリート化されていくこと。おそらく次の世代では牧草地がなくなり、ミラノ近郊の遊牧は不可能だろう」と寂しい現状を教えてくれた。 レナトの本拠地はオロビエ Orobie という村。 http://www.orobie.it/orobie/home/ このサイトからは「最後の羊飼い」の予告編も見ることができる。
左:プロデューサーのアンナ・ゴダードさん 右:マルコ・ボンファンティさん <劇場公開情報> 「恋するローマ 元カレ元カノ」(原題: EX) 
2010年のイタリア映画祭で「元カノ/カレ」というタイトルで上映された作品が、劇場で公開される!イタリアでは興行面で大ヒットを記録しただけでなく、イタリア版アカデミー賞・ダヴィド・ディ・ドナテッロ賞にも10部門でノミネートされている。喧嘩の絶えない熟年カップル、挙式予定の教会で今は神父となった元カレに再会して心揺れる女性、離婚調停中で子供の養育権を押し付け合う夫婦。数年前に離婚した妻の突然の事故死に直面する元夫など、いずれも問題を抱えたさまざまな年代の男女の6つのエピソードが絶妙に絡み合う、笑いと感動のラブコメディーだ。クラウディオ・ビジオやシルヴィオ・オルランドらベテラン勢からフレッシュな顔ぶれまで揃った演技陣のアンサンブルも見どころ。 2013年1月12日より東京・シネマート新宿 2013年1月19日より大阪・シネマート心斎橋 にてロードショー 渡辺いさ子/Isako Watanabe



