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イタリア最北東、フリウリのオリーブ収穫

イタリア北限のオリーヴオイル

スロヴェニアやオーストリアとの国境となるイタリア最北東のフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州。良質のワインの産地であることは知られているが、オイルの生産地でもある、ということはあまり知られてはいない。

ここは、ウーディネ県、チヴィダーレ・デル・フリウーリにあるVenchiarezza(ヴェンキアレッツァ)というオーガニックのワイナリー。8月後半から約1ヶ月をかけてのヴェンデンミア(ブドウ収穫)を終え、その後に続くのがオリーヴの収穫だ。

ブドウ収穫はそのタイミング及び醸造の過程でかなり気を遣うものである。白品種の多いこの地区はなおのことだ。その収穫期をようやく終了して気を緩めたいところにオリーヴ収穫が始まることもあり、生産者にとっては、精神的にも肉体的にも疲労の溜まるところ。

とはいえ、ここはもう一踏ん張り!と収穫を迎えた。

この土地ならではの土着品種「ビアンケーラ(Bianchera)」

同農家では、約3ヘクタール分のオリーヴの畑に1000本弱の樹をもつ。特徴的なのは、これらのオリーヴのうちの1/3ほどを占めるビアンケーラという品種。この地の土着品種である。

オリーヴ畑は神聖な雰囲気がある


少し大きめな淡い緑色の実の表面にはよく見ると白い薄い斑点がある。これが「ビアンケーラ」という名称の由来でもあると聞いたことがある。

この品種は他品種に比べて最後の収穫となる晩成型。厳しい北東イタリアの冬に、そして海岸側からの冬季の強い風、ボーラにも耐えうる非常に強い生命力を感じさせる品種だ。

そして、その味わいも非常に個性的。それの持つ透明感とフレッシュ感はフルーツや野草のような風味、喉に残るアーティチョークのような程よい苦味の印象は、ポリファノールの高さを示している。

オリーヴの収穫スタート!

オリーヴの収穫のタイミングを決めるのは、実の状態を見極めつつ、まずはフラントーイオ(搾油所)の予約からスタートする。というのも、同地にてオリーヴを収穫する者は、そのほとんどが自家にて搾油用の機材を持ち合わせていないため、地域のフラントーイオを利用する。オリーヴ収穫後はすぐに搾油の作業に入る必要があるが、収穫のタイミングは何処もほぼ同時期。

ということでフラントーイオでは、日時及び量を調整し予約制をとる。この時期は、フラントーイオはフル稼働。各農家はそれに合わせて日々の収穫を計画する必要がある。

さあ、10月中旬の晴れた朝、収穫がスタートした。収穫の見極めは、オリーヴの樹になる実の熟成具合。ここでは、全体的に緑色のオリーブの中に40%ほど色が黒色に変わり始めた頃を見極めている。黒色までしっかり熟したものは、油の搾油率は高くなるものの、フレッシュ感が乏しく、また酸化がしやすい。ここは各作り手の判断となるが、同農家の生産者は、フレッシュ感のある風味が目指すところであるため、緑色の実の方がかなり目立つ段階で収穫する。

実の色づきを見計らって収穫のタイミングを決める


収穫作業は、まずは一本の樹の周囲に大きなネットを敷く。2枚を利用し、樹の左右を隙間のないように。

そして、取手の長い電動の熊手を持ち、枝を振動させて実を落としていく。枝先の一粒も逃さないように、丁寧に…。一本の樹が終われば、予め敷いておいたネットを次の樹へ移動し、同様の作業が続く。

一本一本、一枝一枝を丁寧に…


何本かの樹を通過すると、ネットはもう動かせなくくらいまで重くなるため、ビンズと呼ばれる農業用の大きなカセットの中へ一気に投入。この時点で男性2名でも持ちきれないくらいの重量となっている。

こうして一本一本の樹の実を収穫していく。作業は非常に単純だが、かなりの重労働だ。

ビンズの中いっぱいになったオリーヴ。とても美しい


この農家のアイドルは葉っぱの上が気持ちいい!と嬉しそう


収穫後はフラントーイオ(搾油所)

朝から始まる収穫は、同夕方にその日の収穫量に達するところでフラントーイオへ運ぶ。この日の1日の収穫の目安の割り当ては10クインターリ(1,000kg)。大抵はそれよりも無理やりでも多めに作業すルことが多く、この日も15クインターリ分ほどを持ち込んだ。

フラントーイオへ到着。これから重量を量る


重さを計り、あとの作業はフラントーイオへ任せる。オーガニックの農家のものは、扱いも特別になるため、毎回、作業前には機械の洗浄が施される。

フラントーイオ内は搾りたてのオリーヴの香りが充満。洗浄→低温圧搾を経て最終的に絞り出された果汁(オイル)はなんともいえない深い緑色の液体。色も香りも味わいも濃厚。

フラントーイオでの搾油作業


洗浄された実は、この後圧搾へ


搾りたて!


翌日、次の収穫物を運び込むときには、前日の作業したオイルを受け取ることができる。収穫した実に対して、絞り出されるオイルはその重量の10%にも満たない。かなりの重労働であるため、新しいオイルを目の前にした喜びの反面、現実も堪えるところ、でもある。

とはいえ、持ち帰ったそれをパンにたっぷりとかけていただく幸せは、労働の後の何よりのご褒美だ。

新オイルはこのステンレスの缶の中でしばらく静置し不純物を時間をかけて下に移行させ、1-2ヶ月後にフィルターにかけて瓶詰めにされる。

新鮮なオリーヴ果汁はこのまま静置


昨年の収穫はゼロだったこともあり、今年のオイルの出来上がりを楽しみに待っている。


作業はもうしばらく続く…

 

Venchiarezza

via Udine, 100 33043 Cividale del Friuli (UD)

https://www.venchiarezza.it

 

 

フリウリのぶどう、土着品種 〜初夏の畑より〜

今年はぶどうの生育が良さそうだ。8月末から9月にかけての収穫までの間、雨が続いたりヒョウが降ったり…などが起きると状況は一転してしまうが、それがないことを天に願いつつ、現在のところ元気よく成長を続けている。

ぶどう畑では、勢いを増してそれぞれの樹からツルを上へ上へとのばしている。
ワッサワッサという成長音がまるで聞こえてくるのではないか、と思うほどだ。

この季節のぶどう畑はほんとにいい。生きよう!という”気”がみなぎっている感じがする。

しばらくしたら夏の剪定作業が始まる。

ここは、フリウリでオーガニックのワインをつくる生産者の畑。ぶどうと地表の草で、眩しいほど一面に鮮やかな緑色が広がる。

整然とした畑は気持ちがいい


“白ワインの聖地”とも呼ばれるこの地は、質のよいぶどうを生育するための自然環境が整っている。

背後には3000m級の山脈、そしてその向かい側にはアドリア海。1時間ほどそれぞれの方角に車を飛ばせば、山、海ともに到着する。そんな環境にあるため、山から海に向かって風が吹き下ろすポイントになっているようだ。とにかく風通しが良い。真夏でも特に夜間には怖いくらいの強風がふき、気温がグッと下がる。

南地域に比べて夏を迎える季節の変化とそれに伴う温度の上昇が緩やかなこと、そして昼夜の寒暖差が大きいことなどの要因は、自然からの恵みだ。

それにより、果実に適度な酸味を残し、深みのある甘みを与える。果実の熟成ポイントの訪れるタイミングには、酸味と甘みのバランスが非常によく保たれることとなる。
また、風通しの良さは、湿気を溜め込まないという点からもオーガニック栽培を無理なく実現するには、最高の条件でもある。

イタリア最北西という特異な土地環境は、文化および食文化にも同様に影響している。そして、ここにはこの土地ならではの希少なぶどう品種が存在する。いわゆる土着品種と言われるものだ。

そもそもイタリアは、その土着品種の数が世界中でも圧倒的に多く、ソムリエ試験を受ける者泣かせであるが、フリウリはその品種の数が特に多い。

ぶどうの樹は、品種によってもちろん顔が変わる。それもかなり大きな差が。判りやすいのは、葉の形。そして果実のつき方。

この時期は、花が終わり、実がその姿を露わにするときだ。今の畑はその違いが非常にわかりやすい。そして、それぞれの個性がすでに頭角が現れている。そのうちの一部をご紹介。

まずは「(トカーイ)フリウラーノ/ Friulano」 。

上方左右に”翼”をつけたように結実する


“トカーイ”と呼ぶことができなくなり、”フリウラーノ”と呼ばなければいけないのだが、この土地ではこの品種はやはり”トカーイ”と呼ばれる。
見てわかりやすいのは、上方両脇に耳のような形に実がついていること。この部分は「翼=アリー (alì)」と表現される。

そして「リボッラ・ジャッラ / Ribolla gialla」 。

この地域を代表する白ブドウ品種


この土地で近年非常に注目されている品種。今年は結実も早く、熟成も早めではあるが、同品種の収穫のタイミングを見計らうのは難しい。もともと酸味が極めて強い品種であるがゆえ、糖度の適当な具合を判断するには生産者の様々な考えがある。

通常、収穫は白品種から始まることが多いが、この種に限ってはメルローなどの黒ブドウ品種よりも収穫が後回しになることも珍しくはない。

これは「スキオッペッティーノ / Schioppettino」 。

大きな房で、点々と存在するように結実


このぶどう畑のあるプレポット (Prepoto) という小さな地域のオリジナル品種だ。

縦長の大きな房。実のつき方もお互いが離れてバラバラな感じだ。
同品種は、その性格がまるで”聞かん坊”のよう、とも言われる。葉も実も好き勝手にあっちこっちに向かって成長する。湿度に非常に敏感で、病気になりやすいにも関わらず、硫黄系の散布剤に非常に弱い。つまりはオーガニック栽培が実現しずらい品種でもある。

「レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソ / Refosco dal peduncolo rosso」 。

茎が赤いのでわかりやすい。品種の名前の由来でもある


“ペドゥンコロ”とは、茎の部分を指す。ここが赤い(ロッソ)から、この名前がついている。
仕上がるワインは色あいは深く、エレガントでタンニンの存在もしっかり感じるもの。この時点で、他との品格の差を見せつけているような、そんな気品がある。

そして「ピノ・グリジョ / Pinot grigio」 。

小さくキュッとつまってコンパクト


品種としては土着品種ではないが、一般的に周知の通りフリウリの同種は非常に評価が高く、また生産量も高い。

この品種は非常に密にコンパクトに実をつける。早熟な品種でもあるので、見るからに他に比べて結実がよい。当然のごとく収穫も大抵は、このピノ・グリジョからスタートする。
今年は特に、この”密さ”が顕著に感じる。

ぶどう畑にいて、ぶどう自体と同じくらいいつも目を奪われるのが、これ。ヴィティッチ (viticci) と呼ばれる部分。

この細いヒゲに大きな力が蓄えられているよう


上方に伸びる性質のぶどうは、何かに頼っていかなければ立ち上がれないので、介在を探す。そこに細い新茎、いわゆる巻きひげをぐるぐると巻きつけて立ち上っていく。
これがものすごい力の持ち主。これがあるから、力強く成長する樹を支えていける。

ぶどうの収穫が終わり、葉を落としてもなお、このヴィティッチはしつこくも巻き付いたまま。冬の剪定時にも、1シーズンを終えて枯れているかと思いきや、最後の残された力でこれをはずすのに、結構な力を入れる必要があるくらい。

静かに、必死に、そしてひたむき。

ここからいろいろなことを教えてもらっている。

フリウリの土着品種オリーブオイル「ビアンケーラ」

イタリア国内で生産されるオリーブの産地としては、少々意外かもしれない。イタリア最北西に位置するフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の土着品種として、ごく僅かではあるが生産される品種がある。それが「ビアンケーラ(Bianchera)」だ。

ウーディネからトリエステ方面を中心に、クロアチアのイストリア及びダルマチア地方にて生産される。
この地の冬の厳しい寒さに耐えるがゆえ、頑丈なたくましさを持つ品種でもある。太い幹にしんなりと長い枝をつけるが、その生命力の強さからか、剪定をしっかりしてあげないと、上方まで高く高く枝を伸ばしすぎてしまうこともある。

地域的には、トリエステで有名な突風ともいえる「ボーラ」の影響を受ける土地だ。このしなやかな枝を備えたオリーブの樹の並ぶオリーブ畑は、植わっている樹が全体的に風のふく方向に傾いている、という光景を目にすることもある。

イタリア北部のこの環境だからこその生産物


「ビアンケーラ」という品種の名の通り、「白い」という意味合いを含んでいるが、その理由は実の表面に白い小さな斑点が見られることから。小さめで密な実をつける、このたくましい品種は、オープンではないが内に秘める強さを持つ、この地方の住人の気質を表しているかのようでもある。

2018年はオリーブも当たり年!たくさん実をつけました


収穫は全体的に遅めであり、通常は10月中旬以降から。収穫のタイミングとしては、樹全体になる実の色の変化がひとつの目安。オリーブの実は緑からだんだんに熟して黒くなっていくが、それらが一本の樹に半々になりかける頃合いを見計らう。フレッシュ感と完熟感の、それぞれの良さを逃さないようにするためだ。

現在最も新しいオイルである2018年産のものは、実の生育期に気温が高く日照時間も多くあったために少し早めの収穫時期を迎え、品質、量ともに非常に良い年であった。

収穫作業には、一本一本の木の下に大きな大きな網のシートを敷くことからスタート。樹の両脇を2枚のシートを重なるように並べ、一粒の実も取りこぼさないように注意する。そして、電動の熊手を用い、それを上下に揺らしながら実をシート上に落としていく。一本の樹が終わると、そのシートを次の樹の下へとひっぱって移動し、作業続行。シートに落ちた実が溜まり、その重さのために、移動するのが困難なくらいになったら、その集めた実を都度大きな容器に移す。

摘みたてのビアンケーラ。愛おしい‼︎


収穫は、一粒一粒を丁寧に無駄なく摘み取るように注意する


それを収穫後すぐに搾油所に運び、搾油作業へ。収穫した実はその時点から酸化が始まるため、即日搾油はよいオイルの必須要素だ。

搾油したばかりのオイルの香りは、びっくりするほどの芳醇さ。いわゆるオリーブジュースだ。これをこのまま静置しておくと不純物が底に溜まってくる。オイル全体にもそれを残しておくと酸化の原因にもつながるため、一定期間の静置後はフィルターにかけ、その後に瓶詰め作業となる。

絞った直後のオイル。香りがすごい。この場で見ているだけでバケット1本食べられる


フィルターにかける作業中


できあがったオイルの特徴は、とにかく品種的にポリフェノール含有量が高いことから、苦味と辛味を十分に感じる決然とした味わいだ。うまくできたこのオイルの清らかできっぱりとした強い風味は、格別なものといえる。

パンに絞りたてのオイルを浸るほどかけて食べる…このうえない幸せ


使い方としては、生野菜のサラダに…というよりも、焼いた肉や魚の調味料として。温かいミネストラの仕上げに加えれば最高の調味料に。そして、シンプルなトマトソースのパスタの仕上げにスッと一筋加えることでその一皿は一段と味わい豊かに。また、全粒粉などのクセのあるパスタとこのオイルとの相性は非常によい。

シンプルなミネストラにこのオイルを一筋かけて…格別な一皿


とにかく一度お試しいただきたい希少価値のあるオイルだ。

 

フリウリの山間にて味わう最高の「Cjarsòns(キャルソンス)」

イタリアの最北西、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州を代表する料理の筆頭となる、この料理。名前もなんだかイタリア語なのかどうか…と疑問に思うようだが、この地は古くから時代を追って多くの民族の侵入があり、また、オーストリアとスロヴェニアを国境を持つ地域として、現在でも非常に独自の文化を持つ特異な州といえる。州名の「フリウリ」はウーディネ方面を、「ヴェネツィア・ジュリア」地域はトリエステ方面の総称となり、イタリア国内にはよくある話ではあるが、お互いにその文化を共有することは彼ら自身が否定するところだ。

そして、さらにこれらとは、またまた一線を画する地域が同州内「カルニア」地区。オーストリア国境に面する山間の地区。ここには、さらに独特の文化が根付いており、食文化も非常に特徴あるものだが、同時にこの地区の料理が同州ならではの郷土料理として知られる例も多い。

そのひとつが「Cjarsòns(キャルソンス)」だ。


もともとフリウリ地方には、「訛り」とはまた違う独自言語ともいえる「フリウリ語」というのが存在する。「フリウリ語-イタリア語」辞典も本屋に普通に並ぶくらいだ。
同料理名「Cjarsòns」もなかなか発音が難しいものではあるが、その料理名の由来を聞いてみると…。
よく言われるのは、詰め物をしたピッツァの「Calzone(カルツォーネ)」や、小物などを入れてしまっておく引き出しを意味する「Casetteriera(カセッテッリエラ)」など。いずれも詰め物をした料理というところからくるようだが、実はそうでもないらしい。または、カルニア地方を意味する「Cjarnion(チャルニオン/キャルニオン)」から派生する、等…。この地方の料理をよく知る長老的人物に話を聞いても、どれもこれも真相ではない、という。

そして、もちろん土地料理ならでは。各人、各家庭の伝統の味、手法があり、それぞれに受け継がれてきたものであるから、ひとつのレシピとしてこの料理が収まることはまず、ない。

私個人として、いくつかのキャルソンスを食べてきたが、信頼できる一皿を見つけた。それを作ってくれるのが、同地区、Forni Avoltri(フォルニ・アヴォルトリ)にて、ホテルとレストランを経営するマンマであり、シェフである、Tiziana Romanin(ティツィアーナ・ロマニン)さんだ。

オーナーシェフのティツィアーナさん。厨房での右腕、ジョヴァンニさんと。


1908年にこの地でオステリアを開いてから100年以上も続く家系。一人娘であったティツィアーナさんは、やはり現在の彼女のように、この店を引っ張ってきた彼女のお母さんからその全てを受け継いできた。

緑に囲まれたホテル・レストラン


大きな窓からみえる景色を見ながら食事を


この地では、野菜も肉類も、もともとは現地調達。野菜は建物横にある畑から、食用とする肉は信頼のできる知り合いの農家から、ジビエの季節には必ず土地のものをハンターから…それらの素材を大切に、自然への礼を込めて丁寧に、且つ正確に扱う技法・技術、そしてお客様へのホスピタリティ等々、ホテル及びレストラン経営を続けていくうえに大切なスピリットを全て譲り受けた、と自覚している。

最愛のお母さんとの写真。店内に飾ってある。


主要都市からはかなり離れた場所にあるが、夏や冬のバカンスシーズンはもちろん、その季節以外でも、よくもこんなところに…と思うほど、常に多くの客で店が埋まる。土地柄、たまたま寄った、という感じの客は皆無であり、ほぼ全ての来客はここを、そして彼女を知って訪れる。

周囲の景色も自然いっぱいで美しい


前置きばかりが長くなったが、肝心のこの料理とは…。

同料理はいわゆる詰め物パスタ。ただし、中身を包む生地はニョッキのようにジャガイモが入る(もちろん入らない例もある)。
中身はこれも一様ではないのだが、甘い素材を加えていわゆるアグロドルチェな仕上がりにする場合もあるし、リコッタや野草などでサラートに仕上げる場合もある。

ティツィアーナさんのものは、生地にできる限り多くのジャガイモを入れ、口当たりをふんわりと仕上げてあるのがその特徴。
中身には、リコッタ、アマレッティ、干ブドウなどが入り、そこに欠かせないのがたっぷりと感じるシナモン。
中身の材料をこれもふんわりと仕上がるように混ぜ、それをジャガイモ入りの厚みのある生地で包む。包まれたひとつひとつは茹でて皿の上へ。そこに熱いバターをさっとかけ、さらにシナモンを添える。そして、仕上がりには削りおろした燻製のリコッタチーズが必須だ。

風味と食感が様々に融合する一皿


この甘さのある料理の所以は一時代、領地下におかれていたオーストリアからの影響、そして香辛料をたっぷりと使うのは、その前時代にこの地を支配したヴェネツィアの影響を受ける。
独特の食感と甘さ、そこに塩味や燻製香が混じり合い、さらにしっかりと感じるスパイシーなシナモンの風味。なんとも不思議な風味が一体化している。
いろいろな味や食感が融合して仕上がるこの皿は、まるでこの地に息づく異文化の融合と重なるようでもある。

これも土地のポレンタ料理「Tocj in Branda(トーチ・イン・ブランダ)」


Albergo Ristorante “Al Sole” di Romanin Tiziana

Via Belluno, 14 33020 Forni Avoltri (UD)

Tel: +39.0433.72012

http://www.alsoleromanin.it

フリウリの燻製生ハム「プロシュット・ディ・サウリス I.G.P.」

サウリス産プロシュットI.G.P. (Prosciutto di Sauris I.G.P.) は、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリアの北部、峡谷ともいえるサウリス村でつくられる希少なプロシュットだ。標高1200mに位置する稀有な場所で製造されており、原産地呼称のI.G.P.認定とはいえ、その生産者はたったの2社のみ。

標高1200mの自然に囲まれた地域にてこのプロシュットが生まれる


土地的な歴史から、長くドイツの文化の影響を受け、また長く厳しい冬を越さなければならない故から生まれた、世紀を超えたこの土地ならではの生産物といえる。

さて、この土地に行き着くまでには、結構な山道をクネクネと車で登っていく必要がある。途中、岩を切り出しただけのようなトンネルをいくつか抜けると…

目の覚めるようなエメラルドグリーンの大きなサウリス湖に出る。

サウリス村の入り口、サウリス湖。水面の色が非常に特殊‼︎


これは、戦時中にドイツ軍により捕虜となったニュージーランド人たちの現場での働きによりできあがったものだとか。
どこまでも奥へ奥へと続く峡谷のような風景と、深さを感じるブルー/グリーン、そしてその歴史を考えながら水面を見ていると、まるで吸い込まれるのではないか、という錯覚に陥るようだ。

ここで1862年創業のプロシュットフィーチョ「WOLF (ヴォルフ)」を訪ねる。会社名の「WOLF」は創業家族の屋号。人口約400人ほどの小さなこの村は、そのほぼ全ての家が「Petris (ペトリス)」という苗字を持つ。そのため、お互いを区別するために屋号を用いるのが常となっている。

Wolf社外観


原料となる豚は、北イタリアを中心として飼育されたものを使用する。腿肉の形となって納品される肉には、塩、胡椒、ニンニクがすりこまれ、数日間置いたのち、塩をはずし、温度と湿度のコントロールされた保管庫にてしばらくおかれる。

その後、サウリス産プロシュット独特の工程である「アッフミカトゥーラ」に入る。いわゆる燻製だ。
燻製に使われる木はブナと決められているが、ブナの燻煙は適度に柔らかく、甘みを帯びるほど良さを持ちあわせているので、同製品に適する唯一の木材とされている。

ひんやりとした燻製室。室内にほのかな煙が充満している。


サウリスのハム類の特色をつくるブナの木の炊き場にて。同社を支えるクリスティアンさん


同社の燻製室は肉の保管・熟成庫のある階下に位置し、ここに並ぶいくつかの炊き場からあがる煙は直接燻製室へつながっている。
煙が直接つながる上階の燻製室は低温庫となっているため、燻製はいわゆる冷燻となる。燻製期間は3日間。ここでほどよい燻製臭が肉にまわり、独特の風味を生みだすこととなる。

製品として出荷可能な状態。見ているだけでどことなく燻製香がしてきそうだ


その後は熟成室へ。ここでゆっくりゆっくりと熟成が進み、14ヶ月に達した際に品質がコントロールされる。合格したものは、焼印が押され、ようやく「プロシュット・ディ・サウリスI.G.P.」として認められ、市場に出荷できる態勢となる。

I.G.P.の認定の焼印がされるのは、14ヶ月経過時に検査に合格したもののみ


このプロシュットの味わいの特徴としては、旨みや甘みがほどよく、脂が全体にうまくのっていること。ナッツのような脂と旨みが相互する非常にまろやかさが他地でのプロシュットと一線を画す。薄くスライスしていただくそれは、もちろん食する部位にもよるが、下に残るほどよい塩気は、なんとも北の山奥でつくられる力強さを感じさせる。
そして、これには、しっかりとした味わいを持つ土着品種のフリウラーノを合わせたいところだ。

スライスしたプロシュット。奥はこれも同社の看板商品、スペック。


出荷の際には同社のブランドがかけられる。


同社では、特に18ヶ月熟成に達したものを、「ノンノ・ベッピ」として、ラインナップしている。その熟成した旨みをさらに特徴としたものも同社自慢の一品だ。
そして、同様に同社の看板製品でもあるスペックも合わせて味わうべきもの。

同社売店にて。その場でスライスもしてもらえる。


Prosciuttificio Wolf Sauris
住所 Sauris di Sotto, 88-33020 Sauris (UD)
電話 Tel: +39.0433.86054
HP http://www.wolfsauris.it